Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

羊くんと踊れば

何が羊くんなのかさっぱり分からなかったけど、ミステリー的なほのぼの話、でいいのかな。舞台が巣鴨の地蔵通りなので、個人的には微妙な土地勘があるのでヘンに共感が持てた。

主人公の浅野薫は30歳。高校の教師である。祖父の満治に月に2回会いに行く約束になっている。暑い日に見に行ったら死んでいた。残された預金通帳を調べると600万円引き出されていて、何に使ったのか分からない。薫がそれを調べることになる。ヒントは祖父の入れ墨。

駅前でバッタリ出会った元教え子のにキャバクラに連れていかれて、入れ墨つながりで会うことになるのがこれも教え子の若葉。彫り師の見習い件助手、と自己紹介をするが、

「あの子は天才とバカは紙一重の、ホントすれすれなのっ。中学のときあたしが貸した『ブラック・ジャック』にハマって『モグリの名医になる』って猛勉強はじめたくらいだもん」
「そんな理由で、東大に?」
(p.043)

関係ないが、ページ数の頭に0を付けるのって、何でだ? 桁数を揃えたい?

若葉は東大理三に現役で合格するパワーがあるのに、入れ墨に魂を抜かれてしまって二か月で東大を退学して彫りの世界に入ってしまう。まさかと思うが実在のモデルがいたら怖いかも。

話が後半に進むにつれ、戦争話が出てくる。キャバクラと戦争のギャップがすごい。

「戦争が終わって私らは、二度とあんなことは起こすまいと頑張ってきた。そのおかげでこの国は、見違えるほど自由になったと思っていた。でもな」
 そこでいったん言葉を切って、長治郎は心底不思議そうに、薫の目の色を覗き込んだ。」
「アンタら本当に、自由なのかね」
(p.198)

これはいい質問だ。こういう人に会えたら、あんたらのおかげで今でも慰安婦だの徴用工だなので叩かれまくって大いに迷惑しているから、さっさと責任取ってくれ、と一度言ってみたいものだ。自由なんてものがなかったら大昔に片付いている話のような気がしてしょうがない。まだ100年は続きそうなのでもはや諦めるしかないのか。


羊くんと踊れば
坂井 希久子 著
文藝春秋
ISBN: 978-4163810003