Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

破蕾

この本、図書館の普通のコーナーにさりげなく置いてあったのでうっかり借りてしまったけど、子供も借りていいのかな、というようなハードな内容。装丁も艶本みたいな感じがする。最近はこの程度では驚かないのか。Amazon のレビューにもあるけど、エロさが半端ない。

3つの作品が入っているが、登場人物が重複していて、最初はお咲の視点、次は吉乃の視点からの物語となっている。「咲乱れ引廻しの花道」は、与力の娘、お咲が、吉乃という死罪になった女の身代わりになって市中引廻しの刑を受けるという話。縄をかけられて馬に乗せられるのだが、お咲が乱れるので咲乱れというのはスゴいタイトルだ。きわどい描写を引用したら誰かクリックしてくれそうな気もするが、やめておこう。

がんじがらめに縛につけられているというの / に。身ではなく心が楽になっていく。
(pp.48-49)

心が楽になるというのは、一体どういうことかというと、

強烈な縛につくことによって、かえってそれまで漠として形の定まらなかった、身の自由、心の自由というものが、くっきり炙りだされるようであった。
(p.60)

単にいつもは「ある」から気付かないとか、そういうものでもなさそうだが、日々の生活の中に定常的なストレスがあると慣れてしまって気付かない、そこから急に開放される、みたいなことだろうか。雰囲気的には多少露出狂的な性癖があるような感じもする。

二つ目の話、「香華灯明、地獄の道連れ」は芳乃の視点。この芳乃というのも魔女みたいな女性で、周囲がどんどん巻き込まれる感じが物凄い。アイテムとしては、すごろくが出てくる。

すごろくこそ人生の縮図であった。どこかに己のあがりがあり、そこに向かって生きていくのだ。
(p.88)

人生は実はリアル人生ゲームなのだ。じゃあ、人生ってどういうステージなのか。

――みな、華やかな牢獄にいるのだ。
(p.123)

人生は既に地獄。死んだら天国に行けるという宗教は多いが、実は今いるところがまさに地獄なのであって、そこから開放されるのが死ぬということ、この話を読めばそんな気がしてくる。

芳乃を「ひらく」のは1のゾロ目。

数の組み合わせには特別な意味があると人は思いがちだ。特に同じ数が三つ揃うと、それだけで価値ある何かが起こったような気になる。
(p.125)

3つのサイコロを振ってゾロ目になる確率は約3%。珍しいとは思うがガチャでレアカードを引くよりはいい確率のような気もする。

この本、最初から最後までプレッシャーかけまくりの状況が続くが、

耐えに耐えた分、成就したときの悦楽は激しいものとなる。
(p.141)

それは確かにあると思う。大きな喜びが欲しければ、大きな苦しみが必要なものだ。


破蕾
冲方 丁 著
講談社
ISBN: 978-4065122426