Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

働きたくないイタチと言葉がわかるロボット 人工知能から考える「人と言葉」

今日は「貧しき人々」の続きを書こうと思ったのですが、本をオフィスに置いてきてしまったらしいので、先日読んだ本からちょっと紹介してお茶を濁します。「お茶を濁します」なんて表現を使ったらとんでもないことになりそうだ、というのが分かる本です。何だそれ、といいますと、AIの本です。「働きたくないイタチと言葉がわかるロボット」。

ひょんなことでイタチが言葉を理解するAIを作ろうとするのですが、それがそう簡単なことではないのだ、というのをコミカルに教えてくれます。とても読みやすいです。

例えば機械的に返事をするOKグーグル的マシンに対して、それって考えてないじゃんとイタチが批判するのですが、

カメレオン「そう言うけど、あんたたち自身はどうなのよ? 会話をするとき、いつも「相手の言ったことの中身をちゃんと分かってる」の? そして、いつも「本当に思っていること」を話してるの? 適当に相づち売ったり、適当なことを言ったりしないわけ?」
(pp.040-041)

反射的な会話は結構ありますよね。いつも考えてモノを言ってるのかと言われたら、確かになかなか怪しいものです。

イタチたち「いや、でも、ちゃんと考えて返事することもあるよ!」
カメレオン「だから、その「ちゃんと考えて返事する」ってどういうことだよ?」
(p.041)

こはちゃんとじゃなくて「考えて」の方がポイントなんですけどね。

じゃあ聞くけど、あんたたち、自分たちがレオンちゃんみたいに「過去にされた会話の記憶」を使わないで話してるって自信ある?
(p.041)

その自信がある人間は殆どいないでしょう。 実際、人間は他の人の会話を聞きながら育って、真似をすることで学習して大人になっていくのですから、大抵のことは今まで聞いた表現の組み合わせに決まっています。誰の真似もしないで話をしたら、通じないような気さえしてきます。

少し哲学的なところに踏み込んだりすると、例えば「分かる」とは何なのか、こんな感じで、

リンゴを見たことも食べたこともないのに、リンゴについての質問に答えられるなんて、本当の意味で「言葉が分かってる」とは言えないと思うよ
(pp.060-061)

じゃあ分かっているというのは一体何なのか、という話に逆戻りしてしまうのです。実は人工知能に「分かる」を判定させようとすると、非常に難しいのです。何かを暗記した、覚えた。1853年に何がありましたか。ペリーが来た。答えることはできても、それは覚えている知識を引き出してきただけで、「分かった」ではないですよね。

最終的には機械学習で何とかしようと頑張るけどもうどうにもならない、という現状のAIと似たところで話は終わっています。この先はAIの研究者の頑張りにかかっているわけですが、そこから先は未開の荒野みたいなものなのですよね。個人的には、この本に出ているメソッドだけでは太刀打ちできないと思っています。いろいろ抜けている発想があるのです。


働きたくないイタチと言葉がわかるロボット 人工知能から考える「人と言葉」
川添愛 著
花松あゆみ イラスト
朝日出版社
ISBN: 978-4255010038