Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

消費税25%で世界一幸せな国デンマークの暮らし

日本はやっと本当に消費税が10%になるということでザワザワしているが、高消費税の国、デンマークの生活はどのようなものか、リアルなデータを示しつつ紹介してくれる本。

デンマークの消費税は25%。しかも、高いのは消費税率だけではない。納税の例が出ている(p.115)のだが、年収が426,348クローネ(639万5220円)に対して、税金は153,447クローネ(230万1705円)となっていて、収入の36%が税金として差し引かれている。さらに、年金や健康保険料まで加算した国民負担率を比べると、

2007年の主要先進国のデータでデンマークの国民負担率は71.7%でトップ。日本の国民負担率が39.5%ですから全く違う社会モデルであることがわかります。
(p.116)

稼いだ3割しか手元に残らないのだ。7割も国に持っていかれて、これはボッタクリなのかというと、その見返りが手厚い社会保障制度なのである。それが国民の満足度につながっている。医療費は基本的に無償、出産も無償、教育は大学まで無償、失業対策や高齢者への福祉制度も充実していて、至れり尽くせりだ。

給料はどうなっているのかというと、

デンマークでは、どの企業に勤めても職種が同じなら給料は同じです。
(p.60)

同一労働同一賃金らしい。企業間の格差がないというのが凄い。職種は持っている資格でどれを選べるかが決まる。学校は資格を得るためのステップなのだ。

これに比べて、

日本は総所得からの徴収が約4割なので国が提供する福祉サービスは限定されますが、その分、国民の懐には約6割が残っており自分で使い道を自由に選べるモデル
(p.118)

社会保障・福祉の最低限のラインは低いが、その分は自分で何とかしてね、ということ。社会モデルが違うから、安易に消費税率だけで比較することはできない。そういえば最近またベーシックインカムの話をTVで見たような…

日本は大学の学費が高いとか、それを払うために奨学金を借りたら返せなくなったとかいうネタで、これもザワザワしている状況だが、ネットを見ていて思うのが、学費はタダにしろ、でも大学で遊びたい、というアホな生徒が多すぎる。

コペンハーゲン大学の例でみると、毎年入学する学生数に対し卒業する学生の割合は3割程度
(p.64)

留年率が7割になるのはなぜかというと、

膨大な数の教科書や教材を読破し理解しなければならないため
(p.64)

という。どの程度の量かというと、具体的には、

3年間の学士過程で読まなければならない教材は何百冊にもなる
(p.65)

「過程」は「課程」の間違いだと思うが、何百冊という英文のテキストを読まないといけない厳しさらしい。日本は自国語(日本語)のテキストだけで殆どの科目を学習できる数少ない国らしいが(とはいっても英語論文を読めないと卒業できない学部は結構あるだろう)、外国語のテキストを何百冊も読まないと卒業できないのは結構ハードな話だ。もちろん、それをクリアできたら資格がgetできていい条件で就職できるのだが、結局、デンマークの大学生は遊んでいる暇はないようだ。

そんなに大変なのにどうして大学に行くのだろう。

高卒レベルの教育を受けた人の所得と、一般にデンマークで大卒とされる長期高等教育卒業者の所得とを比べると、大卒の人達の給与額は倍近くにもなります。
(p.146)

長期高等教育というのは、日本でいう大学院。給料が倍という数字は例示されているが、ざっくりいえば高卒の月収が40万で、大卒が80万という感じである。給料を倍にしたければ勉強しろ、ということだ。

ところで、タイトルに「幸せな国」と書いてあるので、幸せって何、という話にも触れておきたいのだが、デンマークでは自殺率が高いのが問題になっているという。

10万人あたりの人口比でEU諸国の自殺者数を見ると、最も多いのがリトアニアの30.4人、次いでハンガリーの26.0人。そしてデンマークは11.9人で27ヶ国中15番目
(p.139)

これは2009年の数字で、日本はこの時点で24.4人、アメリカ11.0人。2016年の時点では、リトアニアは25.7人、ハンガリーは13.6人、デンマークは9.7人。日本は14.3人、アメリカが13.7人である。デンマーク、日本は減少しており、アメリカは増えている。ここで、デンマークの自殺の原因について、

高福祉を実現しながらもすべての国民に幸せを提供できるものではないことの表れです。お金や生活に不安がなくなっても、それで人間は満たされるものではないという難しさがここにうかがえます。
(p.140)

確かに幸せというのはお金で買えるわけではない。大富豪になれば幸せかというと、そうとも限らない。そもそも、本当に幸せな人は、今幸せであることに気付かないかもしれないのである。


消費税25%で世界一幸せな国デンマークの暮らし
ケンジ・ステファン・スズキ 著
角川SSC新書
ISBN: 978-4047315341