Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

河のほとりで

今日は葉室麟さんのエッセイ集、「河のほとりで」。数ページのエッセイが「河のほとりで」「書物の樹海へ」「日々雑感」の3つに分類されている。

「河のほとりで」は歴史ネタ中心のエッセイ、「書物の樹海へ」は本の解説を集めたものだと思う。「日々雑感」はそれ以外の雑記的なもの。

「河のほとりで」からいくつか紹介してみると、

 ところで、わたしたちは第二次大戦という大きな悲劇の後、〈悔恨の時代〉を生きてきた。だが、近頃では〈悔恨〉は遠いものだとする風潮があるようだ。
(p.029「悔過 女帝の世紀」)

悔過は「げか」。世紀というのはここでは奈良時代を指す。こんな感じで、歴史的な話を取り込みつつ、現在の行き方、人生論のような話題まで広げて語りかけてくる。ここでは第二次大戦という言葉が出てくるが、戦争の話は、この本には何度も出てくる。

西欧型の近代国家とは、植民地獲得に明け暮れ、自国の利益を貪るという意味で自らを愛する国であり、西欧国家に追随し、模倣した国造りをしたわが国は、だからこそ敗れたのではないか。
(p.037「西郷隆盛」)

西郷隆盛が西洋を野蛮と言い切ったことから続いてきた話。敗戦の理由は西欧に及ばなかったからではなく、真似したからという発想が何か面白い。

軍国主義の時代、戦争協力を当然のごとく叫び、意に従わない者を声高に避難した〈愛国者〉は多かったに違いない。だが、戦後になって、そのひとたちは自らがしたことを悔いただろうか。
(p.041「藤沢周平文学」)

これは藤沢周平さんが学生時代ちょうど戦争で、級友たちをアジったのを後悔したという話から来ている。山田風太郎さんの日記にも敗戦直後にコロっと方向転換する人達が出てくるが、無節操な人達は実際に大勢いたのだろう。

ちょっと意外だったのが、

学徒出陣の出征兵士がセンチに持っていった本でもっとも多かったのは万葉集だという。
(p.081「ますらおぶり

万葉集には防人の歌なども収録されているが、これを出陣で持っていくというのは私の感覚ではよく分からない。なお、この回のコラムは斉藤茂吉が題材となっている。

「書物の樹海へ」には、解説する本の中から引用されている言葉も出てくる。巻末の解説に出てくるような表現は、一冊の中でも特に印象的なものが多いから、見ごたえがある。

――たとえ三流の玄人でも、一流の素人に勝る。なぜだかわかるか、こうして恥をしのぶからだ。
(p.180「もの作る者は闇を駆ける」)

これは浅井まかてさんの「眩」という小説の解説。

言葉は北斎の言である。プロとアマの間に超えられないような一線が引かれているのだ。それを「恥」で説明するというのがまたプロっぽくて面白い。

 

 

河のほとりで
葉室 麟 著
文春文庫
ISBN: 978-4167910204