Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

魔法科高校の劣等生 入学編

いろいろ途中になっていますが、どの続きでもなくラノベで「魔法科高校の劣等生」。この期に及んでタスクを増やしてどうする、と自爆しておきます。

アニメ化されており、それなりに有名かと思いますが、魔法科高校とは何か、という所から説明しないと話が見えない人もいると思いますけど、魔法系のストーリーは背景が多すぎるので、説明は超ざっくりになりそうです。詳細に興味のある方は、恐縮ながら Wikipedia でも見てください。確か詳しすぎるみたいな警告が出ているレベルで詳しいです。

今回紹介するのは1~2巻の「入学編」です。主人公2人が魔法科高校に入学して生徒会、風紀委員会の委員になってトラブルに巻き込まれて解決する、という話です。意外と短くまとまってしまった!

ラノベで魔法といえば「とある」シリーズが有名で、「とある」は超能力と魔法が共存・並行した世界ですが「魔法科」は背景世界が魔法に特化しています。この魔法は超能力の延長という位置付けで、後述するようにITの概念の影響が見られます。

主人公は司波達也司波深雪の兄妹、というのが実際に近い解釈だと思いますが、タイトルに「劣等生」と付いているので、劣等生という扱いになっている達也が主人公としておきます。ただし、劣等生といっても実際は違います。「とある」の主人公の上条当麻はレベル0、本当に無能力という設定ですが、達也は評価上の表面的劣等生で、実は超一流、ほぼ何でもできるスーパーマン、あるいは忍者という設定になっています。

魔法科高校は入学時の成績で優秀な一科劣等生の二科に分かれています。達也は成績が悪いので二科の生徒ですが、深雪は主席で新入生代表になっています。この分類が元で一科の生徒が二科の生徒を見下すというありがちな状況になっています。リアル高校でもありそうですね。特進クラスとか。格差というより、差別が入学編のテーマにもなっています。

最も差別意識が強いのは、差別を受けている者である、
(1巻、p.31)

もっとも、一科と二科の待遇の違いは能力差を理由にした分類が元になっているので、差別と解釈していいかどうかは微妙なところでしょう。少なくとも今の日本のリアル社会では、成績で振り分けることは差別とはみなしていません。特進クラスに入りたければテストで高得点取れ、それだけです。

ただ、このストーリーで重要なのは、当事者が能力差ではないところに差別的な意識を持っている点でしょう。リアルな世界で成績が悪いために劣等感を持つ生徒がいます。それが何か共感を与えているのかもしれません。ただ、この話、達也は劣等生ではなく事実上スーパーマンなので、どこまで共感できるかは謎ですが、ストーリーの魔法が使える人間と使えない人間という合理的な格差が、現実社会の偏差値が高い生徒と低い生徒の合理的な格差にマッチングしている、といったところでしょうか。

社会が魔法によって階級分けされると、当然それに反抗する勢力が発生します。今回出てくるのはブランシュという反社会的団体です。結局そのリーダーが絵に描いたような馬鹿野郎なのでもう少し何とかならんのかと思いましたが、何か参考にしたのですかね。いずれにしても、異端者には常識は通用しません。

「その『当たり前』が通用しないから、ああいうおかしな連中が蔓延るんだよ」
(2巻、p.91)

ここで「当たり前」というのは、魔法科学校に入るのは魔法を学ぶためである、ということを指しています。おかしな連中というのは魔法を否定しているのに魔法を使う、そこを指摘したセリフです。魔法師は優遇されているそうで、平均年収も高いらしい。

魔法師の平均収入が高いのは、社会に必要とされる希少スキルを有している魔法師がいるからだ。
(2巻、p.93)

平均収入のマジックです。普通の収入の魔法師もいるってことですね。プログラマーもスゴい人は年収で億に届くそうですが、日本の場合はIT土方という言葉がある位で、両極端に超流動的に分布しています。

少し話を戻して、一科と二科ですが、先生は優秀な一科に多く付くことになっています。二科の方がデキが悪いのだから、そちらに先生を割かないのは不公平じゃないかという話が出てくるのですが、むしろ正当という意見があって、

「見込みのありそうな生徒に手を割くのは当然だもの。ウチの道場でも、見込みのないヤツは放っとくから」
(2巻、p.120)

日本の義務教育は、できない生徒に補習することはあっても、できる生徒にさらに上を狙った課外授業を与えることはあまりないような気がします。やる気のない奴はやらないだろ、という考え方も成立しそうですが、ここはそうではなくて、できない奴にはまず自分でできることをやらせるのです。剣道でいえば素振り1万回とか、そういう世界のことでしょう。プログラマーになりたい奴はまずプログラムを写経しろという話、最近どこかで見たような気がしますが。

まず、刀を振るって動作に身体が慣れないと、どんな技を教わっても身につくはずが無いんだけどね
(2巻、p.123)

技術は絶え間ない一見無駄な努力の繰り返しによってのみ上達するわけです。まず体で覚えるべきことを覚える。それが重要。

そもそも魔法無しでやれないヤツが、魔法って余計なモンを上乗せしてまともに動けるわけねえんだ
(2巻、p.228)

何か基礎重視な発想があって面白いです。このラノベ、この種の教訓的な逸話が結構あるのですが、作者さんのカラーなのでしょうか、それとも何か第三者のお告げでもあったのか。

ITの話を少ししたいのですが、この話にはCAD (Casting Assistant Device)という機械が出てきます。

現代の魔法師は、杖や魔道書、呪文や印契の代わりに、魔法工学の成果物たる電子機器、CADを用いる。
(1巻、p.68)

ホウキ(法機)と呼ぶこともあります。魔法は単独で発動できるのですが、いろいろ面倒なので機械を使うという前提です。

CADには感応石という名の、想子(サイオン)信号と電気信号を相互に変換する合成物質が組み込まれており、魔法師から供給されたサイオンを使って電子的に記録された魔方陣――起動式を出力する。
(1巻、p.68)

方陣たる「起動式」はプログラムだと考えるとイメージしやすいでしょう。つまり、魔法を使うという行動はプログラムを実行するのと同じことです。次のような表現も出てきます。

 組み込まれたシステムが作動し、起動式の展開が始まる。
 起動式とは魔法の設計図であり、直接的には魔法式を構築するためのプログラムだ。
(1巻、p.104)

インタープリタがコードを実行するような感じですかね、むしろコンパイラか。コンパイルしてラン。原理はフィクションなのでアレですが、達也は CAD というハードウエアをメンテする達人という設定です。IT的にはスーパーSEって感じ。どの程度スーパーかは、

「ほう……どうやら君は、展開された起動式を読み取ることができるらしいな」
(1巻、p.109)

特殊技能で、これができる人は殆どいないことになっています。プログラマーでいえば、コンパイルされた中間コードやマシンコードを見て動作が分かるという感じでしょうか。

CAD という機械によって、魔法という一般的に最もわけの分からない能力が一気に説得力のある存在【謎】になっているのが、このラノベの最大の特徴だと思います。「とある」は最初から最後までわけの分からないまま突っ走っているので、世界が重ならないように注意しつつ進めていったのでしょうか。

ところで少し余談ですが、この話には面白い交通機関が出てくるので紹介します。

キャビネットと呼ばれる、中央管制された二人乗りまたは四人乗りのリニア式小型車両
(1巻、p.72)

通勤・通学に使われているそうです。定員からイメージすればリフトのようなものでしょうか。個人的には車両というよりも道路の上を皿に乗ったキャビネットが道路を流れていく巨大回転寿司のようなイメージなのですが、こういう交通機関は欲しいですね。東京オリンピックには間に合わないと思いますが、首都圏でぜひ実現して欲しいと思います。


魔法科高校の劣等生〈1〉入学編(上)
佐島 勤 著
石田 可奈 イラスト
電撃文庫
ISBN: 978-4048705974

魔法科高校の劣等生〈2〉入学編(下)
ISBN: 978-4048705981