Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

具体と抽象

今日読んだ本は「具体と抽象」。どちらも思考の基本となる概念だが、個人的にはプログラマーなので抽象(abstract)は体感的に理解していないと辛い概念である。

この本は抽象という概念がよく分かっていない人を対象としている。まえがきに、もう少し細かい話が出てくるが、これは省略させていただく。

まず、抽象化の定義としては、

共通の特徴とは関係ない他の特徴はすべて捨て去ること
(p.26)
複数の事象の間に法則を見つける「パターン認識」の能力
(p.33)

このように、複数の視点から具体的に表現されているので、イメージしやすい。パターン認識というのはうまい表現だと思う。抽象化の例としては、

抽象化を利用して人間が編み出したものの代表例が「数」と「言葉」です
(p.19)

この2つを典型的な例としている。知っていれば明快だが、数が抽象だというのは言われてみないと実感できないほど自然に日常生活で使っていて、案外気付いていないかもしれない。抽象化というプロセスの理解が浅い人は、それを再発見する必要がある。

抽象化の能力が役に立つシーンとしては、

抽象化の能力は、インターネット上にあふれる膨大な情報から自分の目的に合致した情報を短時間で収集したり分析したりする場面でとくに力を発揮します。
(p.92)

何とインターネットが出てくる。これは少し驚いた。検索能力というのは、確かに抽象化が重要なファクターとなっている。検索にはキーワードが必要なので、どうやってキーワードを見つけ出すかという問題が常に出てくるのだ。今の検索システムはドキュメントがベースになっているから、とある言葉に対して関連して出現している言葉を頼りに検索するのが基本になる。AIがより進化すれば、言葉としては全く一致していなくても、抽象化した概念として判断できたらヒットするような検索システムが出てくるかもしれない。

ただ、現実は現実として、次のような皮肉な指摘も出てくる。

対象の抽象度が上がるにつれて、理解できる人の数が減っていきます。抽象レベルの世界が見えている人は圧倒的な少数派です。
(p.113)

確かに抽象化というのは避けられがちだ。だから「分かりにくいので、もっと抽象的に説明してください」というjoke が成立する。私見としても、圧倒的という表現に誇張はないような気がする。抽象以前の問題として、論理的思考すらできない人が大勢いるのだ。

この本は、ところどころに4コマまんがが入っていて、とぼけたネコがそれなりに面白いので、ゆるゆる読むことができる。抽象と具体を説明するための図もたくさんあって、何とか分かってもらおうという気迫…というほどでもないのだが…を感じさせる。

 

具体と抽象
世界が変わって見える知性のしくみ
細谷 功 著
dZERO
ISBN: 978-4907623104