Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

夜は短し歩けよ乙女 (3)

今日も「夜は短し歩けよ乙女」の続きです。永遠に続くわけではないのでご心配なく。

第三章は「ご都合主義かく語りき」。ツァラトゥストラキター。人生は筋書きのないドラマという説もあるが、この本を読んでいると実は踊らされているということがよく分かる。でもないか。いつご都合主義になるのか。今でしょ。じゃなくて、

「とにかく幕を引こう――ただしなるべく己に有利なかたちで」という手前勝手な執念
(p.153)

で the end にしようとすればご都合主義になるらしい。なったらなったで後の祭りなのだ。

今更説明しても徹底的に遅いがこの本は京都大学が密かな舞台になっているから京大を知っている人は一粒で二度美味しいはずだ。残念ながら私は殆ど構内に入ったことがないから全然わかりませーん。京大の学園祭がどんなのかは知らんが、京大卒の森見さんが、

この阿呆の祭典
(p.154)

と豪語する位だからとてつもなくオモチロイに違いない。いろんな模擬店が出てくる。

「ごはん原理主義者」という模擬店
(p.155)

乃木坂の「逃げ水」という歌のビデオはコメ派とパン派で対立していたようだが、ルーツは案外こういう所にあるのかもしれない。後で討論会のシーンも出てくるが、テーマが、

ごはんにもパンにもさしてこだわらない人々が、ごはん派とパン派に敢えて分かれて論争する
(p199)

要するに単なるディベートだな。

先輩だけでなくその他大勢の片思い男子にとっても、学園祭というのはアタックチャンスなのだが、その先輩はナカメ作戦を結構する。コレは

なるべく彼女の目にとまる作戦
(p.156)

を略したものらしいが、傍から見るに目に留まるどころか目に余る行為の連続コンボなのに全然気付かない黒髪の乙女の鈍感度も凄い。もしかしてすごい近眼なのかもしれない。先輩の相談相手は同期の学園祭事務局長だ。証人喚問に呼び出したら面白いことを話してくれそうだが、先輩の親友なので、もちろん黒髪の乙女の話も知っている。

「それで、あの子とは何か進展あったの?」
「着実に外堀は埋めている」
「外堀埋めすぎだろ? いつまで埋める気だ。」
(p.156)

堀も埋めれば山になる。ていうか堀が思いのほか壮大だったのかもしれない。そして事務局長が頭を悩ませているのは最近リアルにニュースになっていたアレだ。

「韋駄天コタツにも手を焼いてる」
(p.159)

リアルの京都では百万遍交差点に現れたみたいで、その時警察が動いた、みたいな話になっていたと思うがその続報が全然入ってこないのは逃げ切ったのだろうか。説明しておくと、韋駄天コタツというのは妙な連中がコタツに入って構内をうろついて他人を誘って鍋を振舞うというオイシイ話なのだ。みたいな雑談をしながら先輩がふとグラウンドを見ると、そこには黒髪の乙女が。ここの描写がビジュアル的にいいから紹介してみると、

その瞬間、阿呆の祭典を満たす一切の賑わいは潮が引くように遠のき、全世界は私の視界を横切るその人影ただ一点へ収束して搏動した。
(p.164)

アニメのシーンが目に見えるようだ。案外全然違ったりしたら面白いのだが、このとき黒髪の乙女は巨大な緋鯉のぬいぐるみを背負っている。なぜそんなものを、と先輩が疑問に思ったところで視点が切り替わる。

そのご質問にお答えします。
(p.164)

これもアニメの手法だな。回想シーンに他人が説明を付けるというのは普通の世界では起こらないが、アニメの世界では日常茶飯事だ。

アニメといえば関係ありそうで無いようで、いや、少しはあるけど、森見さんの作品で有名なのが「四畳半神話体系」、そこに出てくる登場人物はかなり「夜は短し歩けよ乙女」と被っている。

隅には団長が打ち上げ花火のアルバイトで一夏潰して買ったというラブドール(展示資料)が椅子にちょこんと腰掛けている。
(p.182)

これもそちらの作品に出てくるアイテムだ。ラブドールって何だっけ、等身大のフィギュアみたいなものか、とか疑問を持ってはいけない。ましてや絶対にググろうとか思ったりするな。あなたの人生が壊れても私の知ったこっちゃないから好きにしても構わないが。ていうか、そこまでスゴいものでもありません(笑)。

さて、もちろん羽貫さんも樋口さんも出てくる。

「怪しいものの陰には、たいてい樋口さんがいるなぁ!」
「おいおい、お世辞はよせ」
(p.185)

ま、いいか。また話の戻し所が分からなくなったので、偏屈王の話に行こう。偏屈王というのはである。お芝居。ただし会場の申請とかしないでゲリラ的に適当なところでおっ始めるから、当然のごとく学園祭事務局と戦うことになる。事務局員が現れる前に逃げないといけないから、間隙を縫ったタイプの寸劇になってしまう。事務局が劇団員を逮捕しても、代役を立てて次の寸劇を始めてしまうから止めようがない。ヒロインが捕まってしまった後に代役になったのが、黒髪の乙女だった。天然かと思いきや演劇もできるのだ。ヒロインのプリンセス・ダルマのセリフ。

「詭弁論部主将、芹名か?」
(p.193)

芹名という名前は「走れメロス」にも出てきたけど、はて、メロスはどこに行ったかしらん。走るといえば、黒髪の乙女の演じるプリンセス・ダルマが走って逃げているところを発見した先輩は近付こうとするが、事務局員たちに突き飛ばされて、

したたかに肘を打ち、私は海老の如くのたうちまわった。
(p.212)

なかなかの表現だ。先輩は災難続きで、クライマックスは屋上から落ちてしまう。うまいこと途中の物干し竿やらロープやらにひっかかって一命を取り留めるのだが、

まったく無意味な死の淵から不屈の闘志で偶然這い上がった私に、もはや怖いものはない。
(p.223)

死なないというのも当然、ご都合主義の一環であろう。書き忘れてしまったが、リンゴの話とかいろいろ他にも伏線てんこもりなのだが、そろそろ書くの疲れたからまた明日。

(つづく)


夜は短し歩けよ乙女
森見 登美彦 著
角川文庫
ISBN: 978-4043878024