Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

ちんぷんかん

しゃばけシリーズの6冊目。5つの短編が入ってる。

1つ目の「鬼と子鬼」は若だんなが火事で煙を吸ってしまってあの世に逝ってしまう話。ていうか実際は三途の川の手前でふらふら彷徨っている状態なので、死んだかどうか微妙だけど。

「以前来たときは、ちゃんと四十九日かけて、冥土を歩いた筈だけどな」
(p.14)

凄いことを思い出す。なんんと既に死んでいる、一度。あの世から現世に引き戻されて、また死んでしまう忙しい人生のようだ。三途の川だから六文銭の話も出てくる。これって現在(2018年)だと、どうすればいいんだろう。六文なんて単位の貨幣は持ってないし、円だといくらなんだろ。Suica も使えるのだろうか。Tポイントが使えると無駄にならないからいいかもしれないし、ビットコインとかどうだろ。実際は金属を入れると火葬場が困るので六文銭を描いた紙を入れるらしい。燃えてしまったら仏様の方が困りそうな気もするが、とにかく、冥界から現世に戻る下りはメルヘンを読んでいるみたいで面白い。

2つ目の「ちんぷんかん」は秋英という小坊主の話。小坊主だが妖退治で有名な寛朝の弟子になる。ていうか、秋英が小坊主の状態から物語は始まるのだがアッという間に13年が経過して、ようやく妖退治の話を聞く役が回ってきて、ここからが本番です、みたいな。若だんなも登場するが、その前に、寛朝に妖怪退治を依頼してくる客には3種類あるという分類が面白いので紹介したい。

まず第一は、単なる暮らしの悩みを妖のせいと勘違いして相談しに来る人たち。
(p.91)

妖は関係ないといくら説明しても聞く耳持たない相手だ。今の世の中、大抵これなんだろうな。

そして二組目は、本当に妖や怪異に出会ってしまった御仁らだ。急を要する話。
(p.92)

これは法力の強い寛朝が直接対応する。そして、

最後は、不可思議ではあるが、緊急の対処が必要とは思えぬ相談事だ
(p.92)

何か変だというのは分かった。それで? みたいなケース。

この分類法、ソフト開発に使えるような気がする。ソフト開発は怪異ではなくバグを取る仕事だが、それバグじゃなくて仕様通りだという場合、今すぐ取らないとまずい危険なバグの場合、バグなんだけど運用でカバーできるからすぐに対応しなくていい場合。この3つにまずは分類しよう。既にやってるか。さて、秋英はこの3番目のケースを対応しろと言われる。バグじゃなくて怪異の方ね。やり方も教えてもらって、

「大概の話は、ただ聞くだけでいいはずだ」
(p.94)

起こってしまったらどうにもならない場合は、相談されてもどうしようもないし、まあ道理だろう。コストを考えれば、何でも対応すればいいというものではない。障害票は起こすけど保留。さて、若だんなが寛朝と相談していると、

ぎょえええっ
(p.109)

すごい声がする。秋英が叫んだのだが、寛朝は動じない(笑)。仏だけにほっとけ、とかいう。乞うご期待。

3つ目の「男ぶり」は、若だんなのおっかさんのおたえさんの話。卵が次々と出現するのだが誰が置いたのかわからない、という卵の謎に立ち向かう。オチはちょっとリアルだ。ちなみに、おたえさんは能力者、じゃなくて妖が見えるタイプの人。若だんなの母だから当たり前か。

4つ目の「今昔」は陰陽師対決。伏線として若だんなの兄の松之助の縁談がややこしくなるネタが困った感じで面白い。この話は金次が存在感をアピールする。金次という景気がよさそうな名前だが、金次は貧乏神なのだ。縁起が良くなさそうだが、正真正銘の神様だから神としての能力を持っている。ある日、若だんなが妖たちとお菓子を食べていると顔に何か貼り付いて、どうにも取れない。これを金次が簡単に取って、

おやや、この和紙札は式神じゃないか。
(p.207)

本物の神様にとっては、式神なんて敷紙程度のものらしい。軽くあしらっている。この話はリアルな意味で何かちょっと怖いかもしれない。

最後は「はるがいくよ」、桜の花びらの話。桜の木も年季が入れば妖になる。その花びらが人間になって、名前は小紅。花びらだから、

小紅の生きる時間は、たった半月しかないっていうのか?
(p.298)

ということになる。これはどうにもならない。世のことわり、ということになっている。それでも若だんなは諦めない。

あの花びらをですね、散らないようにする方法は、ないもんでしょうか
(p.309)

ガッツは買うに値すると思う。しかしこの話も奥が深いからおすすめの一作なのだ。読み終わってから考え込んでしまうところが、ちんぷんかんの最後を飾るにふさわしい。


ちんぷんかん
畠中 恵 著
新潮文庫
ISBN: 978-4101461267