Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

ゴッドウルフの行方

ミステリー…じゃなくてハードボイルド。スペンサーシリーズといえば有名らしいが、私は他には読んでないと思う。一気に読んでみようか。

推理小説といえばそうだが、命は狙われるし、仕方ないから探偵が殺してしまう、みたいなパターン。出だしからしてちょっとハードな感じがする。

学長のオフィスは、ヴィクトリア朝時代の繁盛している売春宿の応接間のようだった。
(p.7)

行ったことないからイメージできないのだが。

主人公の私立探偵スペンサーは皮肉屋である。いろいろ余計なことを言うのが面白い。

「お嬢さん、この世の中には、自分が知っていることをすべてわたしに話してくれる人間なんかいない、それがけだものの習性なんだ」
(p.24)

お嬢さんと呼んでいる相手はテリィ・オーチャード。この後、殺人犯の濡れ衣を着せられることになるが、まだこの時点ではのほほんとしている。ざっくりいえば世間知らずのお嬢さん。親は金持ち。割とありがちなバックグラウンドだ。ありがちといえば探偵も当然そうだ。おまわりとコネがあって腕が強くて散々な目にあうけど死なない設定になっている。

もちろんマフィアにも脅される。

ブロズが言った。「ソニィは自分の能力を誇張していたようだな」
「たんに、おれの能力をみくびっていたのかもしれん」
「どっちかだ」ブロズが言った。
(p.122)

論理的には両方というケースもありますが。論理的というよりは実践的合理主義といったところか。ブロズはギャングで、ソニィは用心棒。用心棒にこの探偵を少し痛めつけてやれといった(実際は何も言っていない)のに痛めつけられたのはソニィの方だった、という話。しかしスペンサーはスーパーマンではないから結構ダメージを受けている。でも空元気は得意技なのだ。ハッタリでなんぼの世界で生きているから、ハッタリ技は秀逸。

私は拳銃を抜いてテイプ・レコーダーに一発撃ち込んだ。
(p.142)

謎の教団に貼り付けにされているテリィを助け出すシーンである。まずBGMを止めて、拳銃を持ったままテリィを縛った縄を切り、連れてドアの外に出たところで、

「おれは、このドアを閉める」他人の声のように聞こえる声で言った。「少しでも開いたら、ドアを狙って撃つ」
(p.143)

プロなら撃たれずにドアを開ける方法も知っていそうだが、相手は素人なので、こんなことを言われたらドアを閉めた後に追いかけてくるバカはいない。

探偵だけに考え方は合理的で隙もないのだが、どうなるか分からない場合もやってしまうから行動は穴だらけだ。スペンサーによれば知っていることには3種類あるという。

「わかっていて、立証できること。わかっていて、立証できないこと。それと、わからないことだ」

(p.197)

なかなかいい分類だ。


ゴッドウルフの行方
ロバート・B. パーカー 著
菊池 光 翻訳
ハヤカワ・ミステリ文庫
ISBN: 978-4150756529