八つ墓の祟りじゃぁ…【違】
ていうか八つ墓村はホラーじゃなくてミステリーなんですけど、この小説はホラーです。女性を車に乗せて送っていったらいつの間にか消えてた的な Japanese ホラー、イエイです。
大体、幽霊なんて非科学的だし、怪異なんて物語の中だけの存在でしょ。妄想の産物です。私だって実際に幽霊なんか見たのは3回しかないですからね。般若の顔が空中に浮いているのはちょっと怖かったぞ。私は近眼なのにそれはハッキリと見えるのです。
実際、車に女性を乗せて送っていくシーンがあるのですが、
助手席には水に濡れたような跡より他に何も残っていなかった。
(p.98)
ページは平成三年発行の版に基づきます。最新版とはズレているかもしれません。なお、この少し前の描写が結構怖いです。
で、この話、祟りメインです。魔性の子というのは高里くん。本人は祟っていると意識していませんが、周囲は散々な目にあいます。子供の頃の体験で、
高里は、カミカクシに遭ったんだ
(p.42)
冒頭に具体的なシーンもありますが、それが奇怪な出来事の始まりです。殆どの舞台は高校で、高里に関わるサブキャラは教育実習生の広瀬と、その先生の後藤、その他諸々。高里は学校では超絶浮いていますが、
人間は異端に敏感だが、そのわりに高里は迫害されていない。祟ると信じられているからだ
(p.87)
関わると死ぬと思われているのでイジメにもなりません。祟られるのが怖いから、基本、誰も近付きません。それでも、たまにちょっかいする奴がいます。
「お前、ガキの頃神隠しにあったんだって?」
(p.50)
こう言った生徒は自分自身で手を五寸釘で打ち抜くというひどい目にあいます。神隠しにあったことを教えた生徒はノコギリで足を切ります。といっても切断したわけではないですが、切るところを目撃しながら自分で止められないのが怖い。
足を切った生徒が怖がって登校してこないので、高里に見舞いに行ってやれと余計なことを言ったのが岩木くん。広瀬は止めようとするのですが、岩木は高里をビンタします。
「これでおれは死ぬはずだな」
(p.110)
死にます。
パターンは単純ですが、お前何かやっただろとか余計なことを言う奴が出てくる。そいつもアウトです。どんどんエスカレートしていって、ついにニュースになってしまう。マスコミが押しかけます。マスコミが待ち構えている山門が崩れます。
結果として九人の死者、二十数人の重軽傷が出た。
(p.333)
広瀬のアパートの前で待ち構えていたマスコミにも、暴走車が突っ込んできて二人死にます。
この小説の面白いのは、なぜそのような祟りが実現するのか、その裏にある謎なのですが、個人的には祟られると分かっていながら近付いてくる人達がリアルなのがいいのじゃないかと。怖いもの知らずというか、何で怪我するの分かっていて手を出すのでしょうか。
小説の冒頭に出てくる王維の漢詩は、阿倍仲麻呂が日本に帰る時の歌です。当時は日本海を渡るのも命がけでした。それを思うと北朝鮮の木造船も豪傑なのかもしれません。
魔性の子
小野 不由美 著
新潮文庫
ISBN: 4101240213
(最新版 ISBN: 978-4101240510 )