Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

あゝ神風特攻隊―むくわれざる青春への鎮魂

そう何度も延期していられないので紹介する。光人社NF文庫というのは先の大戦のノンフィクションの戦記物を発行しているシリーズで、「あゝ神風特攻隊」というのは、タイトルがそのまま内容を表現しているから説明も必要ないと思うのだが、最近の若い人達はカミカゼを知らなかったりするという噂まである。

正確に表現すると、神風特別攻撃隊。どんな隊かというと、

一、現戦局ニ鑑ミ第二〇一海軍航空隊艦船二十六機ヲ以テ体当タリ攻撃隊ヲ編成スベシ
(p.21)

要するに爆弾を積んだ戦闘機で体当たり攻撃をするのだ。先日紹介した「日本はこうして世界から信頼される国となった」の後半をまだ紹介していないが、そこにも特攻の話は出てくるから、後日紹介することになると思う。

この命令を発したのは大西司令長官。

大西司令長官はこの特攻命令を発令したとき、すでに死を決し、自分も必ず後からゆくと心に固く誓ったに相違ない。長官は敗戦の日、この心の約束を果たした。
(p.25)

大和魂とか武士道を思わせるような決意だ。終戦の日切腹し、遺書に次のように書かれていたという。

特攻隊の英霊に申す。善く戦いたり、深謝す。最後の勝利を信じつつ肉弾として散華せり。しかれどもその信念は遂に達成し得ざるに到れり。われ死をもって旧部下の英霊とその遺族に謝せんとす。
 次に一般青壮年に告ぐ
 吾死にして、軽挙は利敵行為なるを思ひ、聖旨に添ひ奉り、自重忍苦する誡めとならば幸なり、隠忍するとも日本人たるの矜持を失う勿れ、諸子は国の宝なり。平時に処し尚よく特攻精神を堅持し、日本民族の福祉と世界人類の和平のため最善を尽せよ
(p.246)

平時も特攻精神を堅持しろというのは説明を要するかもしれないが、あえて控える。

米軍兵はカミカゼに恐怖した。通常、空からの爆撃は艦船にやたら近付たりはしない。撃ち落とされてしまうからだ。それなりの高度から爆弾を投下するとか、少し離れたところから雷撃機が魚雷を投下し、戦闘機がそれを援護するような感じで攻撃するわけだが、爆弾も当時はスマートじゃないからそう見事に当たるものではなかったようだが、神風は体当たりしてくるからどんどん近付いてくる。船に到達するまでに撃ち落さないと高確率で的中するから game over。最悪は撃沈・轟沈といって、積載した火薬に引火して派手に爆発炎上してアッという間に沈む。毎日のように体当たりしてくる神風は、米軍兵を疲労させたという。

十月末日に正規空母ワスプの搭乗員百十三名の健康診断をしたところ、わずかに三十名が戦闘作業に耐え得る状態で、他は全部過労のために休養を必要とする状態にあった。
(p.38)

イーリアスオデュッセイアに出てくる古代ギリシアの戦いの描写には激戦の後は宴会やって寝てリフレッシュしている様子が見られるが、のべつくまなく体当たりしてくる特攻隊がそんな暇も与えなかったのかもしれない。戦場勤務は明らかにブラックなのだが、メンタルも滅茶苦茶だったらしい。

神風攻撃によってパニックに近いものがアメリカ海軍内に起こったことは、当時、一般には知られていなかったし、また現在でも完全には認められていないが、これは事実であった / とアメリカの戦記に書いてある。
(pp.38-39)

この戦争の教訓は山ほどあるが、人材確保については教訓や反省どころではない穴だらけの状況だったようだ。日本軍だけではない。アメリカ海軍は膨大な戦力で日本を攻撃するのだが、物資は豊富なのにパイロット不足に悩まされたという。補充した戦闘機に乗せるパイロットがいないのである。急遽補充の人員を割り当てるのだが、

しかし、選出されたパイロットたちは、戦闘機パイロットとしてはただちに役に立たなかったので、再教育を必要とし、これにはまた相当の日数を要する。
(p.50)

もちろん、事情は日本も似たようなものだ。神風特攻隊も訓練兵レベルのパイロットが乗ることになり、単調な飛行しかできないから撃墜しやすかったという話が後で出てくる。

もう一つ猛烈に反省されたのが情報戦。大本営の発表が間違っていたことについて、

三月二十三日以来、神風特攻隊の攻撃により、沖縄周辺のアメリカ艦隊の三百九十三隻はあるいは沈没し、あるいは大損害をこうむった。
(p.199)

この数字に対して、

こんなに米軍が大損害を受けておれば、戦争はもう終わっているはずである。ところが実際は、沖縄戦の四月中旬の段階において、米艦隊は十四隻が撃沈されたのみで、艦種も駆逐艦以下の小型艦艇であった。
(p.200)

と著者は記している。この大本営発表については国民に嘘の情報を流したと批判されることも多いのだが、著者はこれを意図的なものというより、下から報告された数字をそのまま出さざるを得なかったのではないかと推測している。

「敵空母を確かに撃沈しました」と報告したのを、司令官あるいは司令長官といえども、そんなことはあり得ないとしてこれを抹殺することは、統率上できないことである。
(p.201)

下がそう言ったのなら信じてそう理解するしかない。昨今の国会で獣医学部の認可や土地価格が適正なのかと騒いでいるが、上司としては下部組織から適切だと報告されたら、そのように理解するしかないだろう。縦割りのシステムが理解できないのならシンゴジラ位は見ておいた方がいい。あれは怪獣映画ではなく政治映画だとか。実際に数を修正すると、

大本営でも諸情報から、戦果の過大報告に気がついて、あるとき若干の割り引きをして戦果を発表したところ、さっそく実施部隊から、いかなる理由で報告した戦果を少なく発表したか、と抗議を申し込まれたことがあり、またあるときには某中佐がわざわざ自ら出頭して、この目で見たのだから間違いはない、
(p.204)

こんなクレームが来る。目で見ても間違いは間違いだ。そもそも今のようにハイテクな時代ではないし、しかも激戦でドンパチやっている所で暢気に何隻沈んだとか冷静に見ている暇があるとも思えない。じゃあデタラメな数字でも仕方ないのかというのは、

問題はこの見誤りを極力少なくするか、あるいは別の方法でこれを修正する手が打てなかったか、という点にある。
(p.202)

というクールな批評をしているわけで、数字を盛るのではなく正確さにこだわるあたりが、日本的な感じがする。

話は変わるが、最後の方に米軍の病院船に特攻した話が出てくる。病院船に特攻してしまったというのだ。そのうちの一機はちょっと言い訳が書いてあって、

いま一つの被害船は、輸送病院船ピンクニーであった。この船は戦闘用艦船のような格好をしており、そのうえ戦時塗色の灰色に塗られていたし、大砲も装備していたのだから、攻撃されても文句はいえないはずである。
(p.208)

もう一つの船も気になるが、本土は空襲で一般市民が攻撃されているときに、特攻隊は病院船は攻撃しないというルールを律儀に守ろうとしていたのだろうか。

 

あゝ神風特攻隊―むくわれざる青春への鎮魂
光人社NF文庫
安延 多計夫 著
ISBN: 978-4769821052