Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

「なんとかする」子どもの貧困

子供の貧困問題についての本。

まず、この本が相対性貧困について書かれているという点に注目して欲しい。昔は貧困イコール絶対的貧困、すなわち貧しいことを意味する言葉だった。銭ゲバというマンガに出てくる「世の中には五円のお金がない家もあるのです」というセリフは伝説になった。しかし、最近の貧困は意味合いがちょっと違う。相対的貧困という言葉がポイントだ。

第一章で、NHK報道で起こった炎上の話が紹介されている。

特に視聴者に強い印象を与えたのが「一〇〇〇円のキーボード」だった。中学生のとき、パソコンの授業についていけなくなったとき、母親が「パソコンは買ってあげられないが」と与えてくれたものだという。
(p.29)

これがNHKが放送した内容らしい。昨今、パソコンなんて2、3万円もあれば買える(もっと安いのもある?)から、それも買えないほど貧しいのだろう、という印象を与えたはずだ。ところが、この話は次のように発展する。

ところがその後、彼女が好きな映画を六回見ていることや、七八〇〇円のコンサートチケットを買っていること、好きなマンガの関連グッズを買って「散在した!!!」と書いていることなどがツイッターの履歴からわかり、“炎上”した。
(p.29)

この炎上事件が相対的貧困という言葉を象徴している。貧乏なのかと思ったら散在できるような経済状態だった。全然貧困じゃないだろ、ということになるわけだ。

昨日も紹介した相対的貧困率という概念をおさらいしておくと、これは貧しさではなく格差をあらわす指標である。例えばアメリカは日本よりも1人あたりGDPが高いが、相対的貧困率も高い。他の人よりお金を持っていないことを貧困と呼んでいるのだ。

日本のように豊かな国は生活レベルが高いため、比較的楽な生活をしていて、毎日食べることができて、衣食住も問題なく、医療もしっかりしていても、それでも貧困と判定されることがある。先の人は、映画を見たりコンサートに行くような余裕があっても、定義上は貧困なのである。

日本の場合、相対的貧困となるラインを計算すると次のようになるらしい。

年間所得が単身者で約一二二万円、二人世帯で約一七三万円、三人世帯で約二一一万円、四人世帯では約二四四万円まで
(p.30)

これにあてはまるケースが相対的貧困と呼ばれているのだ。だから、映画を観たりコンサートに行くことができるのに貧困だということになってしまう。これは本物の貧困を知っている人から見れば猛烈な違和感に結びつく。

その方たちから見ると、相対的には落ち込んでいる子供たちの抱える問題は、まだまだ「生ぬるい」。
(p.41)

修学旅行に行けないとか、大学に進学できないとかいわれても、それがどうした。行かなければいいだろ、働け。そういう感覚があるのだろう。ていうか私にもある。てなわけで愚痴を書き始めたら小説のように長くなってしまったので全部省略する。

第二章には、こども食堂の話題が出てくる。これが実に興味深い。特に、港区の例で、

子供が有名私立小に通っている親が、タクシー飛ばして食べに来たこともありました。さすがにタクシー使って食べに来るこども食堂というのは、ここだけじゃないでしょうか(笑)
(p.88)

こども食堂というのは何かというと、

子どもが一人でも安心して来られる無料または低額の食堂
(p.70)

とのことだ。世間では貧困家庭が利用するというイメージがあるかもしれないが、実はそうではないという話である。しかしタクシーを使って来るというのは珍しい話で、何でそんなことをするのかというと、コミュニケーションの場という役割が大きいのだそうだ。ぼっちでなく、大勢が会話しながら食べるというのが子供を育てる上では重要なのである。

第二章でもう一つ気になったのが、底抜けの話。昔はできない生徒でも100点満点で30~40点は取れたのだが、今は10点取れない生徒がいるという。これを底抜けと言うのだそうだ。

学力の底抜けは一〇年ほど前から教育系の学者の間で指摘されるようになってきたが、白鳥さんの実感ではこの傾向は二〇年ほど前から始まっている。
(p.101)

20年前に一体何があったのかは、この本だけでは分からない。

 昔から、修学旅行費用を積み立てられない家庭はあった。
 しかし、だからといって「修学旅行に連れていかない」という選択肢は、少なくとも教師の側にはなかった。
(p.102)

この変化は2000年頃からだという。何か教育革命的なことがその当時にあったのだろうか。

また、茶髪や金髪、ピアスに化粧といった風紀上の問題を抱える子が登校したときは、以前だったら校門の中に入れてから説教していたものが、今はそもそも校門の中に入れないとなった。
(p.102)

最近(これを書いているのは2017年11月)、地毛が茶髪なのに黒く染めろと強要されて不登校になった生徒の親が学校に対して損害賠償の裁判を起こしたと話題になっているが、染めないと学校に入れてもらえなかったのかもしれない。

長くなったので続きは明日また。


「なんとかする」子どもの貧困
湯浅 誠 著
角川新書
ISBN: 978-4040821733