Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

死の猟犬

本当はハロウィンに合わせて紹介しようかと思ったのですが、何かタイミングを逃してしまったので今頃、今更です。アガサ・クリスティさんの短編集、推理小説というよりホラーっぽい12作品が入っています。

この中で一番好きなのは「翼の呼ぶ声」、牧師と大金持ちの話です。金持ちは意外と現実主義者。

よく金じゃ買えないものもあるって世間じゃ言うけど。なるほどそれはそうだ。しかしわたしの欲しいものは何でも買えるんでね……だからわたしは満足してるのさ。
(p.262)

ページ数はミステリ文庫のものです。この金持ちのボロウ氏、買えるものだけでいい、というには金を持ちすぎているのですが、ある日ボロウ氏の目の前でルンペンがバスに轢かれて死んでしまいます。それを見て、自分が死を怖がっていることに気付いてしまい、あれこれ悩むことになります。そして、

彼をがんじがらめに縛っていたのは、彼の持っている金だったのだ……
(p.277)

飛躍しているような気もしますが、とにかく、そして、最後に思い切った行動に出ます。聖書には、金持ちが神の国に入るよりもラクダが針の穴を通る方がやさしい、と書いてあるようですが。

タイトルになっている「死の猟犬」に出てくるシスターや、「最後の交霊会」に出てくる霊媒師、「ジプシー」に出てくるジプシーの女、地味に怖い人達が続々と出てきます。「検察側の証人」の最後のどんでん返しも面白いです。さて、「ジプシー」に出てくる美女アステリアの言葉から。

割り算にはいろいろ方法があるでしょう。長さ、高さ、幅……でも、時間で割るのはいちばんへたな方法ですわ
(p.114)

 

死の猟犬
アガサ・クリスティー
小倉 多加志 翻訳
ハヤカワ・ミステリー文庫 HM 1-46
ISBN: なし