Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

猫だましい

猫だまし、という言葉があります。相撲の技もありますが。この本は「猫だましい」、猫と魂の本です。

なぜ猫なのかという理由は最初の章「猫をかたる」に出てきます。頁数は単行本の方です。

たましいなどというのはあるのかなのかさっぱりわからないのだが、それがあることを前提にして、ものを書くこと自体、「だまし」とも言える。
(p.6)

何か騙されたような説明ですが、とにかく猫が出てきます。ていうか、猫が出てくる物語を題材にして心理学的分析を行っていきます。例えば、長靴をはいた猫。猫が長靴をはくのは価値がないとして、

価値がないどころか、後足の爪が使えなくなるのだから、大変に不自由なことである。
(p.45)

そりゃそうですが、童話にそういうツッコミを入れられても(笑)。しかしこの後に「不自由なことこそ素晴らしい」と言われると、ふむ、そういえばそうか、とか納得してしまうわけです。

宮沢賢治の猫」という章では、「セロ弾きのゴーシュ」に出てくる猫が紹介されています。河合さんの解釈では、

ここでは何といっても、ゴーシュがその心のなかの怒りを表出できたのが大きい。
(p.100)

猫は癒し系の役目となっています。結構こっぴどくやられていますが、それでゴーシュがスッキリしたのですから、まあそうかもしれませんが、猫としてはえらい目にあわされてトホホですよね。あるいはニャロメとか。

「100万回いきたねこ」の章では、絵本が何刷も発行されていることに触れて、

この調子だと、いずれ100万刷まで達するかもしれない。
(p.133)

ってそんなわけないですけど、お茶目なボケもあります。「少女マンガの猫」の章のチビ猫の分析も面白いです。


猫だましい
河合隼雄
新潮社
ISBN:9784103791058