Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

指の骨

太平洋戦争の日本兵の話です。

舞台はパプアニューギニア。戦闘シーンよりも、野戦病院のシーンが延々と続きます。

「熱病患者は安静が一番だと思っていたが、安静と何もしないことは違うのかもしれんね」
(p.63)

病院といっても、薬どころか食べるものも満足にありません。薬がないのでマラリアにかかったら死んでしまいます。結局、寝ているしかありません。病気になって戦友がバタバタと死んでいきます。最後は、動ける者は撤退することになりますが、すぐに食べるものもなくなります。戦友が遺髪でも骨でもいいから届けてくれと言って死んだ後、指を切り落として、骨にするために焼くのですが、

まだ骨になっていない指を火の中から取り出した。誰も何も言わなかった。私も何も言わなかった。白く平らな石膏のような石の上に、焼きあがった指を置いた。牛肉や豚肉を焼いたときと同じ、赤い、茶色い、指だった。
(p.124)

昔の話を探せば、人肉を食う話は結構あるのですが、基本的にはタブーとされています。病気が伝染するのを怖れたというのも一つの理由です。

指を切るのは、遺族に届けるためなのですが、この本の最初に面白い引用文があります。

童子も亦指頭を堅つるに因って
胝聞いて遂に刃を以て其の指を断つ。
(無門関)
(p.4)

これは無門関の第三則、倶胝豎指という話。とある人に和尚はいつもどうやって教えているのかと尋ねられて、小僧は指を立ててみせます。実際そうやって教えているのですが、何と小僧さんは和尚に指を切られてしまいます。痛いですね。その小僧を和尚が呼び出して、指を立ててみせると、それを見た小僧が悟った、という話です。何を悟ったのでしょうね?

「熱病患者は安静が一番だと思っていたが、安静と何もしないことは違うのかもしれんね」
(p.63)

兵士の心理描写がリアルで迫力があります。イスラバの戦闘の前夜、恐怖で震えが止まらないのが、最後の最後、戦闘準備をしたところで震えが止まります。

私はそのとき、死を覚悟したのではなく、死を忘れた。
(p.73)

こういう所はどのように取材して書いたのでしょうか。実に興味深い。著者の高橋さんは1979年生まれなのです。

最後に、村を攻撃した米軍に激怒するシーンに一言。

人命をなんとも思わぬ米軍の無差別爆撃は許せたものではない。
(p.90)

人命というのは正確ではありません。白人以外、というのが正確でしょう。そういう時代の話です。


指の骨
高橋 弘希 著
新潮文庫
ISBN: 978-4101209913