Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

五重塔

古典的な名作、幸田露伴作、五重塔です。大工の「のっそり十兵衛」が塔を建てる話。

十兵衛は「のっそり」ではありますが腕は確かです。それだけでなく信念を持ってる。職人魂です。五重塔を建てるにあたり、親方とどちらが建てるかモメたとき、親方は二人で建てようと言ってくれたのに、それを断ります。従として関わるのなら何もしない方がいいというのですが、理屈が分かったような分からないような。

十兵衛は馬鹿でものつそりでもよい、寄生木になつて栄えるは嫌ぢゃ、矮小な下草になつて枯れもせう大樹を頼まば肥料にもならうが、ただ寄生木になつて高く止まる奴らを日頃いくらも見て卑い奴めと心中で蔑視げてゐたに、今我が自然親方の情に甘へてそれになるのは如何あつても小恥しうてなりきれぬは、
(p.63)

結局、塔は十兵衛が監督して建てることになり、すったもんだの挙句、もう少しで完成というときに大暴風雨がやってきます。塔の様子が心配なので十兵衛を呼んでこいと言われて、使いの七蔵が十兵衛の家に行くと、

やうやく十兵衛が家にいたれば、これはまた酷い事、屋根半分はもう疾に風に奪られて見るさへ気の毒な親子三人の有様、隅の方にかたまり合ふて天井より落ち来る点滴の飛沫を古茣筵で僅かに避けるの始末に、
(p.108)

避難勧告が出そうな状況ですが、塔を見に来いと伝えても十兵衛は行かないといいます。

風が吹いたとて騒ぐには及ばぬ。七蔵殿御苦労でござりましたが塔は大丈夫倒れませぬ。
(p.110)

流石は職人であります。


五重塔
幸田 露伴
岩波文庫
ISBN: 978-4003101216