芥川、何はともあれ地獄変。
地獄変の屏風と申しますと、私はもうあの恐ろしい画面の景色が、ありありと眼の前へ浮かんで来るような気が致します。
(p.106)
続いて地獄の描写なのだが、地獄を見た人というのは実在しない訳で、あるいはこの世こそ地獄だという人もいたりするのだが、キリスト教的な地獄と日本的な地獄の違いとか、比較すると面白い。エジプトもあったっけ。天国と地獄というのはどんな宗教にもあるのかな、キリスト教だと煉獄というのもある。天国は天獄じゃないけど。
この小説に出てくる絵師の良秀、とにかく奇行というか性格がおかしい。森の妖精どころじゃない。その良秀が最後の最後で、
一人娘を先立てたあの男は、恐らく安閑として生きながらえるのに耐えられなかったのでございましょう。
(p.139)
というのがどうしても違和感が残る。安閑と生きるような性格の人間だとは到底思えないからだ。
この文庫本には他に「偸盗」「竜」「往生絵巻」「藪の中」「六の宮の姫君」の5作品が収録されている。この中から「竜」を紹介してみると、恵印という法師が
三月三日この池より竜昇らんずるなり
(p.144)
という高札を立てる。デタラメなのだが、どんどん拡散して騙された人が大勢集まってくる。ヤベっ、とか思ったようだが、罪悪感も抱きつつも、
やはり気味の悪い一方では、一かど大手柄でも建てたような嬉しい気が致すのでございます。
(p.150)
とかいう。ネットの釣り師とかと同じ感覚なのだろうか。