先日、「とっぴんぱらりの風太郎」の上巻を紹介しました。やっと下巻を読めたので、続きです。
今度は大阪夏の陣が舞台になります。本阿弥光悦に瓢箪を持っていくのですが、光悦は人相も見るようですな。人を斬ったとか、顔を見れば分かるというのは凄いです。風太郎を見て、こんなことを言います。
「何をしたら――、それほど暗いものが積み重なる」
(p.56)
全編通して、どちらかというと天然というか飄々という感じもしますが、光悦にいわせれば、風太郎はかなり暗いようです。
おぬしがはじめて屋敷に来たとき、儂は幽霊でも見ているのかと思うた。
(p.57)
何を背負うとそうなるのかはよく分からないのですが、とにかく殺すのが仕事だし、結構な背後霊が憑いていても不思議ではない人生です。風太郎もやり返します。
「お前はいつも見るばかりの、つまらぬ男だな」
(p.190)
見るのではなくヤルのが面白い、ということでしょうか。最後は面白いでは済まないような大ピンチになってしまいますが、それが悲劇かというと簡単に判断はできません。この小説、偉くなればいいなんて単純な話ではなくて、むしろ、偉い人ほど何故か人生がつまらないというアンチテーゼも言いたげです。
この巨大な城のあるじとして、あらゆる栄誉を生まれながらに得ていても、こんな狭苦しい場所で小声でしか話せぬ今の姿が、皮肉なことにその思いを何よりも明確に伝えていた。
(p.294)
あるじというのは、ひさご様。豊臣秀頼です。蹴鞠が上手なのですが、その相手もいない人生です。杓子定規で教条的な見方をすれば、この小説は幸福が権力や安定の中ではなく自由の中にあるという話なのでしょうが、そう思えば忍者でもある殺し屋の残菊はやけに楽しそうに人を斬っています。約束で風太郎の命を助けて斬るところなど、忍者とは思えない天晴れぶりです。残菊が主役の番外編とかあればとても面白いのではないでしょうか。
時代小説的には、因心居士とか果心居士のような能力者【謎】が出てくるのは反則かもしれませんが、個人的には面白いので何でもアリだと思います。
とっぴんぱらりの風太郎 下
万城目 学 著
文春文庫
ISBN: 978-4167906900