Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

保育園問題

これが何の問題か、今更説明しなくても「日本死ね」で大問題になって、今では日本中の人がこの問題を知っている…

と勘違いしていそうな人が大勢いるような気がしてきた。この本はビックリするような話がたくさん出てくる。例えば、

実は、保育所は定員割れしているのだ。
(p.65)

これ、知ってました?

なぜ定員割れしているのに待機児童がいるのか、という謎はこの後に解説されている。例えば、利用者がどんどん増えているという指摘が興味深い。保育所を増やすと、それなら私もという人が増えて、結局足りない状況が続くというのだ。東京都の数字は p.69 の表に出ている。

数え方も謎が多い。川崎市の場合、

「待機児童6人」とはいうものの、実際に認可保育所に申し込んで入れなかった人は2554人いるのである。
(p.90)

これも何のことか書いてあるので興味があれば読んで欲しい。

保育士が足りない、という話も聞いたことがあると思う。保育所を新設しても保育士がいない。では、こんなことは知っていました?

49歳までの年齢層では、53万人強が潜在保育士だと考えられる。この年齢層の全保育士有資格者に占める潜在保育士の割合は59.2%であり、資格を持っていながら保育士として働いていない人のほうが、働いている人より多い。
(pp.97 -98)

潜在保育士というのは、資格を持っているのに保育士の仕事をしていない人のことだ。約6割の保育士は保育士としての仕事をしていないのだ。薬剤師も似たような問題があったと思うが、この潜在保育士の人達は一体何をしているのかというと、

東京都と埼玉県の調査によると、潜在保育士の4~5割は働いておらず、残りは保育士以外の職種で働いていると見られる。
(p.98)

何で保育士のような引く手数多な資格を持っているのに他の仕事をするのか。 その謎もこの本に書いてあるけど、とにかく保育園問題は、一筋縄ではいかないようだ。

ところで、保育所に申し込むときにまず問題になるのが、両親ともに仕事をしている世帯でないと落ちるという現実である。「日本死ね」もそうだっけ。これは、保育所が足りないため、両親が仕事をしているような、保育所が特に必要な人から優先的に割り当てていくからだ。

待機児童の多い地域では、認可保育所に入所できるのは正社員のフルタイムの世帯ばかりになる。
(p.56)

例えば出産退職してしまったら、その時点で無職になる。後からパートでもしようと思ったらもう遅い。保育園に入れることができない。もちろん、先に就職すれば保育園に入れられる可能性は高くなるのだが、しまった、子供を保育園に入れないと仕事ができないではないか。

実際はこのようなケースだと、まず認可外の保育所に入れる。そして、仕事に就いてから認可保育所に申請するのだ。かなり出遅れることになると思うが。

保育の現場で発生する問題もいくつか紹介されている。

最近、転んだ時に頭を打ったり、前歯を折る子がいるのは、転ばせないように周りの大人が手助けばかりしているので、転んだ時に手をついて顔を守ることができない子どもが増えているからである。
(p.112)

怪我をさせたら怒られるし訴訟になったらただ事ではない、だからといって転ばせないと防御力が高くならない。どうすればいいのか分からない。難しい仕事なのだ。


保育園問題
前田正子 著
中公新書
ISBN: 978-4121024299