今日紹介する本は「猫は宇宙で丸くなる」。猫SF傑作選、ということで10作品が収録されています。
いくつか紹介します。まず、ジェフリー・D・コイストラさんの「パフ」。パフというと個人的にはマジックドラゴンですが、この作品ではもちろん猫の名前です。
主人公は動物を若いままにしておく技術を使って、パフという猫を若いまま長期間生存させておくことに成功します。若いということは学習能力が高い状態が長く続く、ということでパフは知能がどんどん上がっていきます。
こういう技術が実現すると、真っ先に人間に適用させそうな気がしますね。
ロバート・F・ヤングさんの「ピネロピへの贈りもの」。日本では「たんぽぽ娘」がなぜか超有名ですが、これは日本だけの現象のようです。ピネロピというのは猫の名前で、普通の猫です。SFなのは出てくる少年です。ほんわかした作品です。
デニス・ダンヴァーズさんの「ベンジャミンの治癒」は、ちょっとホラー入っています。
ベンジャミンというのは猫の名前です。主人公の「ぼく」は、ベンが死んだときに〈治癒の手〉というスキルを使って生き返らせます。ていうかほぼ不老不死にしてしまいます。「ほぼ」というのは最後は死んでしまうからですが、そういえば猫も何年か生きると化けるといいますが、ベンは途中から会話できるようになります。
同棲中のシャノンはそのスキルのことを知ってしまい、弟のオーブリーを救って欲しいと「ぼく」に頼みますが、それを断るシーンのニワトリが壮絶です。
ナンシー・スプリンガーさんの「化身」。私が最も好きなファンタジーの一つがナンシー・スプリンガーさんの「アイルの書」シリーズですが、この短編はそれに比べるとちょっとダークな感じです。ファンタジー系のRPGに出てくる歓楽街とか、スラムの雰囲気があります。
主人公のキャットは普段は猫の姿をしていますが、人間に変身して行動することもできます。文ストの夏目漱石みたいな感じです。キャットは町で「オリー」という男と出合います。オリーは他人の思考を読むことができます。「琴浦さん」にも占いシーンが出てきますが、思考が読めるというのは占い師にはいいスキルです。
後悔しない生涯など、なにほどのものだ。
(p.123)
ナンシー・スプリンガーさんの他の作品を読んでみてもそういう雰囲気がありありです。人生はファンタジーなのです。
ジョディ・リン・ナイさんの「宇宙に猫パンチ」。すごいタイトルですが、オリジナルの題名は Well Worth the Money。
宇宙人から提供された新しいエンジンを搭載した宇宙船「パンドラ」に乗ったのは3人のクルーと1匹の猫。パンドラは猫のためにネズミを叩くゲームをコントロールルームで起動し、猫を遊ばせたりします。気の利いたAIを搭載しているようです。
船は航行中にスムート星人の攻撃を受け、3人のクルーは麻痺してしまいます。動けるのは猫だけ。この猫がコントロールルームのスクリーンに表示された敵艦を猫パンチで攻撃して戦います。
ジェイムス・H・シュミッツさんの「チックタックとわたし」。
チックタックはカンムリネコ。ネコといってもネコの形をしているだけで謎の知的生命体です。人間を攻撃してガチで勝てる強さです。主人公のテルジーはカンムリネコとテレパシーで会話ができます。それで、カンムリネコと人類との交渉役に立つことになります。交渉といっても人類側の窓口となる調整官はテルジーをまるで信用していないので難航するわけで、ついに強硬手段に出ます。
いったん彼らが手の内をさらしたら、あなたが正しい行いをする時間は三十秒しか残されていません。
(p.320)
このクライマックスはなかなか痛快です。
猫SF傑作選 猫は宇宙で丸くなる
シオドア・スタージョン、フリッツ・ライバー、他 著
中村 融 編集, 翻訳
旭 ハジメ イラスト
竹書房文庫
ISBN: 978-4801911918