Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

アマニタ・パンセリナ

今日の本は中島らもさんの「アマニタ・パンセリナ」。

ドラッグの話です。エッセイということなので実話だと思うのですが、大抵のドラッグが中島らもさん本人の経験に基づいた話になっています。実話にしては危なすぎてフィクションにしてもリアル過ぎるのです。

本には15のエッセイ、つまり15種類の薬物が出てきます。やたら具体的です。ドラッグの二「シャブ」では、

シャブは人間をオンとオフのふたつのスイッチしかない状態にしてしまう
(p.64)

とても気分のいい状態とダメダメな状態にしかなれない、ということのようです。なるほど。他の薬だと中間の状態もあるとのこと。

ドラッグの三「オピウム(阿片)」は、珍しく中島さんの経験談が出てきません。阿片について書かれた本の話が出てきます。例えば、トマス・ド・クインシーさんの『阿片中毒者の告白』という小説があるそうですが、中島さんの感想は、

「けっ」
(p.71)

だそうです。この作品、世間からの評価は高いらしいのですが、

みんなほんとは読んでいないのではないか。
(p.71)

と、ケチョンケチョンです。理由もちゃんと書いてあるのですが、例えば後半が、

思わず台所へ走っていって力一杯手打ちうどんを打ちたくなるくらい冗長
(p.74)

コシが強そうですね。

ドラッグの四「ヒクリさま(幻覚サボテン)」では、サボテンではありませんがバナナの話が出てきます。バナナの皮を吸ってトリップするというネタはマンガか何かで見た記憶があります。本当に吸った人がいたのでしょうか。ちなみに吸ったらどうなるのかというと、

バナナの皮には微量のブフォテニン(ガマの毒)が含有されているそうだ。
(p.79)

とのことなので、大量に吸えば何かが見えるかも。もちろんサボテンの話も出てくるというか、そちらがメインです。

ドラッグの五「咳止めシロップ」は、今市販されている咳止めシロップには含まれていない成分の話。

〝咳止めシロップが止められない〟というので悲観して自殺した高校生もいた。馬鹿な子だ。死ぬくらいなら、
〝続けりゃいい〟
ではないか。
(p.87)

同感ですと言いたいところですが、私は咳止めシロップ中毒になったことがないのでよく分かりません。ただ、中島さんは実際に中毒になった上でそう仰っているので、説得力があるのかないのか。ちなみに中毒から抜け出すために飲むのを止めたときの禁断症状が、

どこか遠くから「浜辺の歌」が聞こえてくる
(p.92)

説得力はともかくとして、リアルです。

咳止めシロップを飲むとスタミナが付くような気がする説があったそうで、これは次のように一刀両断しています。

「スタミナがつく」んではない。禁断時の極度のだるさが普通の状態に戻るだけの話
(p.100)

煙草もそうだという説は昔読んだことがあります。ここで、情報公開してもただちに中毒者が増えるわけではないという件。

酒の広告が世界一多いこの日本で、僕のようにアル中になる人間が二百二十万人。つまり残りの一億数千万人は中毒にならずに過ごしているのだ。
(p.101)

確かに。でも他の国はどうなんだ、というのも知りたいですね。ググってみるとアメリカは810万人という数字が出てきました。アメリカの人口が3億3千万人とすれば、約40人に1人。日本は先の数字で概算すると55人に1人ですか。アメリカよりは少ないみたいですが、感覚的に多いのか少ないのか分からない。私の身近な100人の中にはアル中の人はいないと思うのですが、実は1人いてもおかしくない数字ですね。

ドラッグ七「有機溶剤」はシンナーとかの話。ここでは、実際に経験してみないと、

見えるものも見えてこない。
(p.131)

という話が出てきます。一体何が見えてくるのか。でもその見えているのはおそらく幻覚です。ところで、

毛沢東インドシナの米軍に対してダウナー系のヘロインを大量に渡らせるように仕向けた。
(p.134)

このような知識は役に立ちそう【なにが】なので、教科書にしっかり書いて欲しいです。アメリカの退役軍人が廃人っぽくなっているのはそのせいでしょうか。現代の戦争だとどんな薬が使われているのでしょうか。

ドラッグ八の「ハシシュ」では京大の話が出てきます。百万遍あたりは森見さんや万城目さんの話にも出てきそうな場所ですが、そこに住んでいたドイツ人が、

そこにときどきUFOがくる、とドイツ人が言っていた。
(p.151)

森見さんの小説とか、案外実話なのかも。

ドラッグの九「大麻」では、

「赤。それは赤という色のさまざまなニュアンスの一つ一つにとまりながら飛び回っている蝶々みたいなものだ」
(p.163)

ちょっと何言ってるのかわかりません。

この回には握薬療法というのが出てきます。これは薬の入った包みを手に握らせておくだけで効果が得られるというスゴい療法なのですが、さらにスゴいのがあって、

薬の名を書いた紙片を握らせるだけで効果が表れる
(p.171)

効果があることは医師が確認しているので本当らしいのですが、

それがなぜ効くのかよくわからない
(p.171)

さうですか。

ドラッグの十二「クスリ話」では、澁澤龍彦さんの話が紹介されています。

「滝に打たれて十年で得られる感覚が、ドラッグによって得られるなら、それはまったく同じことなのであって、ドラッグをどうこういう筋ではない」
(p.196)

滝行はその途中経過が重要じゃないのか、という疑問を感じますが、チートとしてはどうなのだろう。


アマニタ・パンセリナ
中島 らも 著
集英社文庫
ISBN: 978-4087470253