Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー

2月最初に紹介する本は、「アステリズムに花束を」。表紙には百合SFアンソロジーと書いてありますが、そんなに百合していないので、そっち方向を期待したら少しがっかりするかもです。9つの作品が収録されています。

森田季節さんの「四十九日恋文」は、死んだ人と49日だけメールで、1日1回やりとりできる、という謎の設定が面白いです。その発想はなかった。しかも最初は49文字使えるのがだんだん少なくなっていって、最後に1文字しか送れないというのがいい。1文字になった時に何とメールすればいいか、というのは自分で考えてみると超絶難しいことですね。

途中に出てくる、コレが面白かった。

出社前に栞の墓掃除した。私って善人
偽善者さんこんにちは。ただの石やで
(p.53)

死んだ本人にそう言われてしまったらどうしようもありません。

草野原々さんの「幽世知能」は、次の発想がいい。

あらゆる物理系は、情報処理能力を持ったコンピュータだといえる。
(p.81)

そこであの世(幽世)を計算機として使おうということになります。この本はSFなのですが、昔に比べるとAI・人工知能、さらに発展した知的情報体ネタが増えているような気がします。以前紹介した、小川一水さんの「天冥の標」もそうですね。

落ちていく……。落ちていく……。
(p.103)

鬼滅の刃の例のCM、受験シーズンになったら放送しなくなったような。

陸秋槎さんの「色のない緑」は情報科学SF。computer science fiction です。タイトルの元ネタはチョムスキーの「Colorless green ideas sleep furiously.」です。チョムスキーは大学で習ったのですが、懐かしいな。この英文の情報科学的な意味もちゃんと本文中に解説されているのでご安心を。ちなみにこのストーリーには退色した元緑色のペンダントが出てきます。


アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー
ハヤカワ文庫JA
S‐Fマガジン編集部 編集
ISBN: 978-4150313838