Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

太陽と乙女

パソコンを起動するといつも Microsoft Teams が起動するのがうっとーしい。一人会社でどうやってチームプレイをしろというのだ。登録者数を見てから起動しろと言いたい。

ということで、今日の本は「太陽と乙女」である。森見登美彦氏のエッセイ集である。何となく森見氏の作品には親近感というかデジャヴ的な雰囲気があると思っていたのだが、その疑惑が氷解したような気がする。もちろん太陽というのは大阪万博で世界を驚愕の渦に巻き込んだあの太陽の塔のことであり、乙女というのは夜が短いのである。文庫本の表紙を見ると乙女が出てこないのは気に食わないが、誤差の範囲内だ。

ちなみに森見氏の年齢は定かではない。年齢不詳というわけではなく私が知らないだけである。

ルパン三世」が私の生まれるよりも前に始まったアニメだという知識はなかった。
(p.94、「子どもの頃の私は、「日曜日の昼は、将棋とルパン三世によって完成する」と思い込んでいた」)

確か初回の放送は私が小6の時だから、年齢はそれなりに離れているようだ。しかしこの本を見ると、行動範囲が案外共有できているような気がするのである。森見氏といえば京都のイメージだったが、この本を見ると奈良や大阪が案外出てくるのだ。

久しぶりに鶴橋を訪れた。
(p.303、「長い商店街を抜けるとそこは」)

実は今の私の商店街のイメージは下北沢南口や戸越銀座のそれであって、大阪での思い出はあまりない。近所に商店街がなかったのである。たまに行ったのでよければ、千日前商店街はそれなりに記憶にあるな。梅田も商店街があって、パチンコをした記憶もある。しかし鶴橋に行った記憶はない。それのどこが共有なのだと言われそうだが、記憶はないが行ったことはあるのだ。なにしろ50年以上前のことだから覚えていないだけである。

覚えているのは、生駒山

私は子どもの頃から生駒山を見上げて育ったので、この山には思い入れがある。
(p.382、「私と古事記 森を見る登美彦」)

生駒山なんていう山のことは、世界レベルでは知らない人の方が多いだろう。日本レベルでもそうだろう。でも私は知っている。しかも森見氏が生駒山奈良県から見たときに、

思わず「東京には山がない」と呟きたくもなった。
(p.310、「ならのほそ道」)

というのは長年東京に住んでいるのでよく分かる。東京にも高尾山があるじゃないか、という人がいるかもしれないが、いやいや、そーゆー話ではない。大阪にいれば、生駒山はとりあえずだいたいどこからでも見えるのだ。六甲山も。大阪は関東平野のようにだだっ広い平面ではなく山に囲まれた閉鎖区域なのである。もっとも、見えるといっても場所によっては案外遠いが、

私のように奈良の北の端、京都や大阪と県境を接するあたりで育った人間には、生駒山の存在感は格別なものがある。
(p.311)

そのあたりなら、生駒山は眼前にそびえる鉄壁のように見えるだろう。実際は楽々徒歩で越えられるレベルの山だし、ハイキングコースも充実しているが。ちなみに、私は生駒山を逆側、大阪から間近に見える所で育った。八尾のあたりである。子供の頃は、山火事を見るのが楽しいという不謹慎な子供だった。

この本、エッセイなので雑多なネタが山盛り出てくる。特に共感できるのは「とりあえず書く」だ。

私が小説を書く際に、絶対に変わらない唯一の方針は、「とりあえず書く」ということである。
(p.155、「とりあえず、書く)

この精神はプログラマーにも言えることだし、幣も取りあへずという人もいたし、ていうかソレ言ったのは菅原道真さんだな、ちょうど京都から奈良に向かうところの峠を手向山というらしいから、「とりあえず」は日本の文化でまにまになのだ。そういえば小学生の時にクイカマニマニという歌を音楽の授業で習ったような気がするのだが、未だに意味が分からない。あんな得体のしれない歌を教える意味が分からなかった。グローバル化の走りなのだろうか。ダイバーシティとか出てきたら勝ち目がないからこの話題には深入りしたくない。

文章を書く人は多かれ少なかれそうだと思うが、書きながら発見するということがしばしばある。
(p.159「この文章はぶっつけ本番で書くのである」)

書くことで見えてくるものは確かにある。リファクタリングすれば性能はupするのだ。しかし、その「とりあえず」は案外難しい。

本当に大事なのは、「ただ始める」ということにあるので、どのように始めるかということはさほど重要なことではないかもしれない。
(p.195、「作家の字典「始」」)
何をおいても、まず仕事に取りかからなければならない。
それが一番難しい。
(p.462、第二回 仕事にとりかかることについて)

プログラムも、最初に書き始めるところが一番難しいような気がするのである。


太陽と乙女
森見 登美彦 著
新潮文庫
ISBN: 978-4101290553