Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン

今日の本は「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」。近未来SF。

物語は1948年から始まる。第二次世界大戦は日独伊が連合国を破り、アメリカ合衆国は日本合衆国となった、という設定。メカが出てくる。個人的にはガンダムよりはボトムズに近いイメージか。主人公は、石村紅功、べにこと読む。通称はベン。男だ。仲間となって暴れまわるのは特高の槻野昭子。

作者の Peter Tieryas さんは韓国生まれの米国人。そのキャリアで日本メインのストーリーが書けるのか、もちろん作家だから妄想やfakeで日本を描くのは得意なのかもしれないが、それが実在する日本と乖離していては、日本人から見ると違和感があるだろう。そこが面白いのかもしれないが、作者曰く、

日本文化にはつねに大きな影響を受けてきた。宮崎駿小島秀夫三島由紀夫木城ゆきと押井守庵野秀明深作欣二、小玉理恵子、坂口博信黒澤明大友克洋などのアーティスト/作家/デザイナーの作品は、少年期の私にとって敬愛の対象だった。
(下、p.274)

何か偏り感が半端ないのだが、その方向での知識は結構鋭い。ただ、その上で考えるとやたら出てくる天皇陛下へのイメージはどうも違和感がある。

「神たる天皇陛下にご奉仕しているのだ。狂気に近いくらいでなくては反逆罪にあたる」
(上、p.56)

大戦前の日本人であっても、この考え方は無いだろうと思う。そもそも狂人は自分が狂っているとは自覚していない。戦前の日本が天皇陛下に対して持っていた感覚は狂気ではないはずだ。

この作品の一つのクライマックスは、ベンが命を賭けてゲームをする場面。ベンと昭子はカタリナ島に行きたい。その交渉のため、裏世界のボス的存在のモスキートと話をすると、ゲームで勝てば行かせてやるという。

お前が生き残ったらカタリナ島まで無料で乗せてやる。死んだらゲームオーバーだ
(下、p.82)

このゲームにはイーグルキラーという最強プレイヤーがいる。誰も勝てない絶対強者、それに勝たないと死ぬ。トーナメントは最初、このイーグルキラーと2人チームを組んでプレイすることになる。まるでチームプレイになっていないが、イーグルキラーが一方的に得点するので勝ち進んで行く。そして決勝戦はベンとイーグルキラーの一騎打ちになる。

勝戦で圧倒的な得点差で負けているベンはものすごい勝ち方をする。負けたイーグルキラーが、

チートだ! 冒涜だ!
(下、p.127)

と叫ぶのも無理はないような滅茶勝ちだ。面白過ぎるので伏せておく。しかしゲームプログラマーはそういうことをしたがるものなのだ。昔、私がとあるゲームを移植したときも、裏コマンドとして直前の操作をやり直せる隠し機能を実装した。ま、デバグ用だ。実行方法は本人も忘れたから知りたければコードを読むしかない。

この話で面白いキャラだと思ったのが久地樂。クジラと読むのかな。巨体っぽいイメージだが多分その通りで、いつも何か油っこいものを食っている。和訳では関西弁で話すのでわかりやすい。久地樂の母親は伝説のパイロットで、その技を受け継いでいる凄腕の操縦者だ。

最後に、今回のいいと思ったセリフを紹介。

制度というものは、うまく使うか、さもなければ使われるか、どちらかだ
(下、p.182)


ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 上
ピーター トライアス 著
中原 尚哉 翻訳
ハヤカワ文庫SF
ISBN: 978-4150120986

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 下
ISBN: 978-4150120993