Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

キノの旅2 the Beautiful World

今日は「キノの旅」から2巻。

どういうジャンルなのかというのは10月16日の投稿をご覧ください。で、今日は一つキーワードを追加して、多様性について。これは全巻共通して出てくるテーマなのですが、いろんな思想が出てきます。ある人から見れば正しいが、他の人から見れば正しくない、でもどちらが正解か分からない。読者も迷ってしまう、そのようなパターンがよく出てくるわけです。

ということで、第一話「人を食った話」。これは人を食ったタイトルですね。キノは割と簡単に人を殺します。人を殺すということについては、

「正しくないよ。でも、死にたくはなかったんだよ」
(p.42)

生きるためなら他の人を殺してもいいのか、というのは究極の選択のようですね。しかしキノが人を殺す理由は「死にたくはない」からなのでしょうか。そんなことを考えながら行動していたら殺されてしまうような気がします。考えずに殺せるスキルになって、ようやく生き延びることができる。そういう世界のお話なのです。

ところで、この話でキノは指輪を代金としてもらうのですが、最後に、

「これは、お返しします。ボクは、あなた方を助けることができませんでしたから」
(p.43)

なぜ助けることができなかったからという理由で指輪を返したのか、よく分からないです。かなり奉仕はしていましたからね。

第三話「魔法使いの国」は、飛行機を知らない人ばかりの国で飛行機を飛ばそうとした女性の話です。最初は狂人扱いされていますが、本当に空を飛んだら魔法使い扱いになります。この国では魔法使いはとても高い地位のようです。面白い価値観です。

この国の、次のルールが面白いです。

国長は、いつでも国民の訴えを、どんなものでもとりあえずは聞かなくてはいけない
(p.67)

ある程度の規模を超えるとこのルールは破綻します。人間が聞くことができるデータ量は限られていますから、妨害工作ができるのです。国長は一人で国民は大勢ですから。

第六話「帰郷」は、故郷を離れて何かを探そうとした人が結局見つからなくて元の国に帰って来る話なのですが、国を出る時に言われることが、

「ここで生まれた人間は、ここで生きるのが一番なんだよ。どうしてそれが分かんないんだい」
(p.135)

でもその国の人は流行り病で全滅してしまうのです。その国の人達の人生は「一番」だったのでしょうか。このテーマは他の話でも出てきます。幸せとは何か、という壮大なテーマにつながるネタです。

第八話「優しい国」。この話も国民が全滅します。この話は2回アニメ化されていますが、やはりインパクトが強いのでしょうか。さくらちゃんが印象的です。

「私達の国は、それまで立ち寄ってくれた旅人に対して、大変不遜な態度をとってきました。そのことで彼らが気分を害していることも、十分知りながらです。
 私達は、このままでは私達が、失礼な言動ばかりとった民として、誰かの記憶に残ってしまうことになると気づいたのです。

 私達は、これからもし誰かが、この国に立ち寄ってくれることがあれば、できうる限りの歓待をしようと心に決めました。この国の、私達の記憶を、素敵なものとして残してもらいたいと。
(p.217)

国民が全員死んでしまうことが分かっているのに、記憶を素敵なものとして残してもらいたい、と考えたのはなぜなのでしょうか。死んでしまったら、もう何も気にすることはできません。後に残す人達のことも気にする必要がないのです。

今回のいい一言は、第七話「本の国」から。

例えば十人くらいの人間が何かをなしとげようと決意して、その願いを叶えることができるのは、一人いればいい方だ。
(p.169)

一勝九敗、という本がありましたね。


キノの旅2 the Beautiful World
時雨沢 恵一 著
黒星 紅白 イラスト
電撃文庫
ISBN: 978-4840216326