今日は福田和代さんの「空に咲く恋」。
花火師の息子の由紀が人間として成長する話です。コイバナか、というとそれほどではありません。ちなみにこの由紀、女性アレルギーという設定になっていて、それも重症で、触られると気絶します。てなわけで、それどころではありません。
全体的に和風の、ほのぼのとした話です。イケイケのお姉さんとか、悪役だが根は善人の児島とか、キャラも面白いです。
由紀の得意技は般若心経。おばあちゃんに般若心経を覚えたら何の役に立つのかと質問したら、
人間はね、役に立つか立たないかなんてちっぽけなことで、ものの値打ちを決めたらいけないの
(p.8)
なかなかいい答が返ってきました。ちなみにこの本には般若心経がどう役立つかも書いてあるので、興味がある人はぜひ。
由紀は花火師になるのが嫌で逃亡してしまい、自分探しの旅(?)に出て、その時、一文無しに近い状況で新潟県の村にたどり着き、とある農家のお世話になります。
僕はこんなに、周囲のひとに迷惑をかけながら、そして助けられながら、ようやく生きている。
(p.70)
割と切実にリアルな話なのです。小説ですが。
こんな言葉も出てきます。
僕は、大事なものをなくした経験が、本当は一度もないのかもしれない。というか、大事なものをなくすのが嫌だったから、そんなものを作らないように逃げ回っていたのだ。
(p.127)
化物語の阿良々木くんみたいですね。人間強度だっけ。
途中で出会ったぼたんちゃんが花火屋の娘、という縁があって、運命に流されて自分から花火に熱中していくというストーリーになっています。テーマの関係上、花火に関する話がたくさん出てきます。
花火というのは、打ち上げるひとつの玉の中に、「星」と呼ばれる、ウサギのふんくらいのサイズの球をたくさん詰め込んでいる。
(p.161)
ウサギのふんって普通に話が通じるんですかね。小学校で誰でも育てた経験があったりしますか。
最後に一言。神棚で手をあわせるシーン。
どんなに必死にがんばっても、ダメなときはダメなの。だから、こうして手を合わせて、自分を透明にしておくの。
(p.221)
最後は神頼みなんですよね。
空に咲く恋
福田 和代 著
文春文庫
ISBN: 978-4167915261