Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

天冥の標 6 宿怨

今日は天冥の標、Ⅵ。「宿怨」。この章は PART 1 から 3 まで3分冊になっています。

テーマは《救世群》の世界征服。《救世群》はカルミアンという異星人の技術を使うというチートでセレスを占領しようとします。圧倒的戦力でセレスの防衛艦隊をおおむね殲滅。勝利宣言をしようとしたときに、

「敵艦がいる。すぐ近距離、四百五十キロ」
(PART3, p.215)

これが以前出てきたドロテア・ワット。後は勘のいい人なら想像通りの展開になります。

今回重要なのは、冥王班の治療薬が作れるという話。

カルミアンが来てからもう十年近くたつのに、誰一人、「この病気を治して」と頼むことを思い付かなかった。
(PART1, p.350)

不可能だと思い込んでいたのですね。盲点というべきか。冥王班についておさらいしておくと、

冥王班のウイルスは、病気の症状が収まっても消滅しない。患者の体内で生き続け、周囲の人間へと広まろうとする。その感染性は強く、しかも空気感染する。
(PART1, p.117)

このため、治癒しても、

感染性が強力すぎて、健常者と一緒に生活できなくなる
(PART1, p.117)

ということになります。初期の冥王班の致死率は95%。これは次第に弱化していきますが、感染したら一生隔離するしかない、ということで出来たのが《救世群》なのです。

この章だけでも壮大で、ストーリーの感想を書き始めると果てしないのでそこはスルーして、今回もキャラの個性が独特という点に突っ込んで何人か紹介してみます。まず、アイネイア。

『どんな星も結局みんなブラックホールになる』と言ってしまえば、これはこれで間違いじゃないだろう? でも、あいだをすっ飛ばしすぎだよな。
(PART2、p.194)

イサリに向かって言う言葉です。風桶だけでは分からない、とはいってもスペースオペラみたいな話になってしまうと、間をいちいち説明するのも面倒というか、説明されても分からないんですよね。

次はシグムントの言葉。戦いの勝ち負けはどうやって決まるか。

勝敗そのものを決めるのは、僕は、思いこみだと思う
(PART1, p.227)

負けたと本人が納得しないうちは負けたことにならない、ということですね。

ラゴスの言葉。

モウサが敗れたのは予期せぬタイミングでそれが出動してきたからだ
(PART3, p.257)

ヒルラゴスの会話です。予期できれば事前に対策できる。予期できなかったらどうなるか分からない。ラゴスは医師だけに、何故ということの追求には容赦がないのです。モウサは《救世群》の指導者ですが、急に出てきたソレ(ドロテア)に敗れてしまいます。敗因は予期せぬタイミングというのがラゴスの分析です。

最後に、今回のいい言葉を1つ。

前例のないことは、なんだって最初は失敗する。
(PART3, p.146)


天冥の標 6 宿怨 PART1
小川一水
富安健一郎 イラスト
ハヤカワ文庫JA
ISBN: 978-4150310677

天冥の標 6 宿怨 PART2
ISBN: 978-4150310806

天冥の標 6 宿怨 PART3
ISBN: 978-4150310943