今日の本は「コロロギ岳から木星トロヤへ」。SFです。アニメにするのにかなり困りそうな話です。
この話、メインゲストのカイアクというのが何なのか、というのが難しいです。
時の泉を泳ぐのだ、とカイアクは思っていた。
(p.9)
さらに、この話に出てくる「楔」とは何なのか説明するのがもっと難しいのですが、多分時空間を説明するときに出てくる過去と未来に伸びている円錐形のモノをイメージすればいいのではないかと。
で、カイアクというのは時空間を超えて存在する超生命体、みたいな。それが人類にコンタクトして与えたミッションがこれ。
「尾の先は二一七年先の木星前方トロヤ群にあって、おそらくそのそばに人間がいる。彼らに、私の尾を開放しろと伝えてくれ」
(p.59)
意味を説明するのは無理なので、何がどうなっているのか知りたい方は読んでください。最初はワケがわからないかもしれませんが、その壁を乗り越えたら面白いです。その後もう一度読み直すと二度美味しい。ちなみにカイアクがどんなヴィジュアルかというのは一言でいうなら、
紫蘇漬けにした大根
(p.44)
だそうです。
主人公のリュセージとワランキの二人の少年は2231年、木星トロヤの宇宙船に閉じ込められています。どうにかして外部と通信しようと試みて、カイアクの尾を叩いてモールス信号を送ることにします。カイアクは時空間を超えた存在なので、頭は2014年のコロロギ岳の観測所にあります。尻尾と頭で情報伝達はできる、つまり過去に向かって情報を伝えることができるのです。STEINS; GATE みたいな話です。
観測所にいるのは岳樺百葉という所員と水沢潔所長。
「ラジオの自作ぐらいはやったことあるがね、ハムは電話級止まりだった。電信級まで習得する前に国際モールスが正式に廃止されたよ。一九九九年だったな」
(p.79)
2020年現在、モールス符号は健在のようです。宇宙船に尻尾が挟まってしまい、カイアクは身動きが取れません。無理に動こうとすればできなくはないのですが、それをやると地球が消滅するとか、副作用が大きいので穏便に解決したいのです。
時間を超えて情報伝達するということは、つまり、
歴史の流れそのものを上書きしているんだ。
(p.141)
いわゆるタイムパラドックスが発生します。この副作用でストーリーが始まった状態と、終わりの状態の変化で、ちょっとほんわかした話になっているところがいいです。
もっともストーリーの方はスリリングなシーンの連続で、特に厳しいのが原子炉の近くでの作業。
あの子たち、一日百シーベルト近い放射線を浴びてる。
(p.177)
現場では時間との闘いで、早くクリアしないと死んでしまうわけです。
コロロギ岳から木星トロヤへ
小川 一水 著
橋本晋 イラスト
ハヤカワ文庫JA
ISBN: 978-4150311049