今日は最近ちまちまと読んでいる、「辰巳八景」から少し紹介します。
いわゆる時代物で、江戸の町民の生活を描いた作品です。この題名の由来については、巻末の解説によれば、
長唄の『巽(辰巳)八景』に依っている。
(p.398)
とのことで、八景については、
永代の帰帆、八幡の晩鐘、佃島の落雁、仲町の夜雨、石場の暮雪、新地の晴嵐、洲崎の秋月、櫓下の夕照のこと。
(p.398)
とのことです。私はこの元ネタが分かっていないので十分に本作を味わえているとは思えないのですが、日本人の古くから伝え続けてきた良き思想に溢れているような気がしています。
例えば本書の2つめの作品、永代寺晩鐘に、このようなシーンが出てきます。
かしらが帰るなり、武蔵屋は店の雨戸を半分閉じた。祐助は店仕舞いにしたかったが、遠くから堅焼きせんべいを求めに来る客を思っての半開きである。
(p.96)
先日、10分ほど駅前で待つことがあったのでベローチェに入ってコーヒーを頼もうとしたら、閉店ですと言われたことがありました。店には Open の札がかかっていましたが、時計を見ると18:01。コロナの時短のため、18:00で営業終了だというのです。時間外に営業すると、いろいろ問題があるのかもしれませんが、「客を思って」という考え方は令和の時代にまだ残っているのでしょうか。
辰巳八景
山本 一力 著
新潮文庫
ISBN: 978-4101213422