Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

ユリイカ1997年8月臨時増刊号 総特集=宮崎駿の世界

今日はユリイカ臨時増刊の「宮崎駿の世界」を紹介します。この本は1997年8月に発行されました。

1997年の7月に「もののけ姫」が発表されて、全体的にはその話題で満載ですが、それ以前の作品との関連、共通性、テーマなどを比較・論評した記事がたくさん載っています。

ナウシカの人差し指に印されたキツネリスの歯の痕は、『もののけ姫』のアシタカの腕に刻まれた猪神の触手の痣とおなじく、超人的な膂力で乗り越えられた苦痛のシンボルであると同時に、世界の危機に立ち向かうべく選ばれた者の聖なる傷痕(スティグマ)なのだといえよう。
(p.105、中条省平、戦いの倫理と飛翔の快楽)

キツネリスに噛まれて、怖くないと諭すシーンに聖痕のごとき傷痕という意味付けがあるとは思いませんでしたが、言われてみればそういう意味もあったのかなと。個人的にはナウシカは蟲を殺し過ぎる話ということで完結しているのです。宇宙のバランス的な話として。

キツネリスといえば、個人的には竹宮恵子さんの「地球へ」に出てくるナキネズミが何となく頭に浮かんできます。

となりのトトロの作品論には、こんな分析が出てきます。

精神分析的な発達論から考えると、四歳になるメイはちょうどエディプス葛藤のさなかにある。
(略)
エディプス葛藤とは、フロイトによれば、三~五歳の子どもにみられる深層心理で、異性の親に愛情を抱き、同性の親に対抗意識と憎しみを向けるというものである。
(p.166、平島奈津子、ファンタジーが生れる空間 「となりのトトロ」論)

平島さんによれば、トトロは少女が秘めている「魔」の象徴だというのですが、魔にしては結構デカイですよね。あの作品をこのように分析して解釈するというのは、考えすぎのような気もしますが、では一体何を言わんとする作品なのだといわれたら、なかなか難しいわけです。

トトロは描写としては純和風ファンタジーだと思えば、ナウシカは少し次元の違った世界、もののけ姫はまた違った次元の世界、というような感じがしますが、その根底に魔というものがあるとしたら、この世界は恐ろしいという前提がどこかにあるのでしょう。というのが私の印象です。

この本の出た後、2001年には「千と千尋の神隠し」が公開されますが、ここでまた世界は純和風ファンタジーの世界に戻るのです。世界はスパイラルしながら発展していくのです。

 

ユリイカ1997年8月臨時増刊号 総特集=宮崎駿の世界
青土社
ISBN: 978-4791700202