Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

ブレーメンの音楽師―グリム童話集 III (いばら姫)

今日は昨日紹介した本、「ブレーメンの音楽師」から別の作品を考察してみる。考察という高級なモノではなく、グダグダの雑感だが。この本には有名な作品がいくつか収録されている。「狼と七匹の子やぎ」「赤ずきん」「いばら姫」などだ。今回考えてみたいのは「いばら姫」。

この話は、まず子供がなかなかできない王様とお妃にカエルが予言するところから始まる。

あなたの望みはきっとかなえられましょう。
(p.190)

しかし、なぜカエルなのかは分からない。この話にカエルは二度と出てこない。何かメッセンジャー的な象徴なのかもしれないが、童話とはいえ、カエルが人と会話するというところに既に違和感がある。化物語ならカエルは「変える」だとか、王子が呪いをかけられてカエルの姿なのだとか、そのような展開がありそうな場面だが、そのような話でもない。

さて、お姫様は本当に生れて、祝宴が催されることになる。ここで事件が起こる。

ところが、その国には。十三人の女うらない師がいますのに、ご馳走を盛る金の皿が十二枚しかなかったのです。そこで、女うらない師のひとりだけはその席に行くのをやめて、うちにいることになりました。
(pp.190-191)

金の皿が足りないという理由で一人だけ招待しないというのは、普通に考えてあり得ないことだ。一人だけ皿が金でないと、それはそれで波乱になりそうな気がするが。それにしても十三というのは不吉な数字だ。

この十三番目のうらない師が祝宴に乱入して、十五歳で王女が死ぬという呪いをかけるのだが、十二番目のうらない師が後からそれを上書きするというのも面白い。一見、賢いうらない師だという感じもするが、どうもしっくりこない。十二番目のうらない師が用心してまじないをかけるのを待っていた、というのも何かすっきりしない。とにかく、十二人目がまじないをかける前に、十三人目が呪いをかけてしまうのだ。十三人目はもう少し待てなかったのか、何かうまくハメられてしまったか。

上書きしたまじないの内容はこうである。

ただ、王女さまが百年のあいだ、深い眠りにお落ちになるだけでございます
(p.191)

実際は、王女が十五歳になって眠り始めた時に、城にいる全ての人だけでなく、火や風のような自然現象も全て停止する。そして、城の周りはいばらが伸びて城を囲い込んでしまう。そのようなことはまじないの内容には出てこないから、そこにはまじないだけでなく、何か異質の大いなる意志の存在を感じる。

そして、数多くの王子が、いばら姫の噂を聞いて会おうとするのだが、いばらの囲みに遮られて誰一人会うことができない。ところが、たまたま百年目にやってきた王子がいばらの生垣に近づくと、

垣根はひとりでに左右にひらき、王子を難なく通りぬけさせるともう一度とじて、またもとの生垣になりました。
(p.195)

ここには2つのミステリーがある。なぜ垣根が勝手に開いて王子を中に招き入れたのか。そして、その後なぜ閉じる必要があるのか。これも出来レースのような気もするが、実はカエルが王子様、のようなシナリオだと面白い。しかしそれだと王子様は百歳超えだ。

王子が城に入ると、中の物も人も全て静止している。いばら姫のところまでたどり着くと、王子はキスをする。

王子のくちびるが、いばら姫にふれたと思うと、いばら姫は、ぱっちり目を開いて目ざめて、とてもしたしそうに王子を見ました。
(p.196)

ここにも謎がある。普通、知らない人が目の前に現れたりしたら、大声を出して叫んだり、逃げだしたりしそうなものだ。しかし、いばら姫はそのような素振りを見せないのだ。

寝ぼけているのかもしれない。

この話の教訓は一体何なのだろう。一人だけ除け者にするのはよくない、のような凡庸な話ではないだろう。たかが除け者にされた程度で死の呪いをかけるというのも度が過ぎている。グリムの童話にはもともと度の過ぎたものが多いが、この話のように具体的な数字が出てくるものは、何か実話の元ネタがあるのではないかと勘繰りたくなる。小さな事件を膨らまして物語にするというのは常套手段だ。仲間外れにされた人が逆恨みする事件など、今の時代でもありふれているから、そのような事件もいくらでもあっただろうし、たかがその程度のことで殺人事件に発展するというのも、絶対にないとはいえない。この話の十三番目のうらない師は呪いをかけた後は登場しない。呪いをかけるだけの役で、その後、呪いを解除するために戦うとか、そのような展開はない。

王子にしても、たまたま通りがかっただけで、何か特別な力を持っていたわけでもないし、悪魔を退治したわけでもない。勝手に城の中に入って王女にキスするのだから、どちらかというと犯罪者である。それが拒絶もされず、幸せになりましたというオチで物語は終わっている。人生、タイミングが全てだ、というような曲解ならできそうな気がする。

 

ブレーメンの音楽師―グリム童話集 III
グリム 著
植田 敏郎 翻訳
新潮文庫
ISBN: 978-4102083031