Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

菜根譚 (8)

今日は菜根譚から、「真実の楽しみ、真実の憂い」。

人知名位為楽、不知無名無位之楽為最真。 人知饑寒為憂、不知不饑不寒之憂為更甚。
(p.103)

「楽」は楽しむということだが、解釈がなかなか難しい。満足するとか、ゴールとするに値するというか、そのようなニュアンスがあると思われる。偉い人、有名な人になりたい、という人は多い。何故だろうか。真の楽しみは「無名無位」にあるというのは、単にシガラミとかプレッシャーがないというような軽い意味ではない。そこには、求めるものの質の違いがある。

後半は比較的イメージしやすい。現代語訳だと、こうなっている。

世の人々は、衣食が足らず飢えや凍えに襲われる生活が不幸であることを知っているが、飢えや凍えがなくなったからといって不幸がなくなるわけではなく、さらにいっそう深いうれいがやってくるものであることを知らない。
(p.104)

昔、といっても昭和の戦前、戦後の混乱期の頃は、飢えや凍えの生活は普通でありふれた光景だった。今の日本には餓死する人は滅多にいない。ホームレスも、働きたいが働けないという人もいるが、そうでない人の方が圧倒的に多くなった。

では日本の人達は幸せになったのか。Yahoo!知恵袋を見ていると、夢が見つからない、何がしたいか分からないという受験生が大勢いる。大学入試に落ちたので死にたいという人がいる。

君たちはどう生きるか」の時代は、働かないと食べていけないので小学校に行けないという子供が出てくる。でも苦しいから死にたいという人は出てこない。食べるために働く、金持ちになりたい、出世したいという夢がある。働かなくても親が食べさせてくれる時代になると、ニートという人種が出てくる。生きるのが楽になることで夢がなくなってしまう。


菜根譚
講談社学術文庫
中村 璋八 翻訳
石川 力山 翻訳
ISBN: 978-4061587427