今日はジョージ秋山さんの「銭ゲバ」を紹介します。週刊少年サンデーに 1970年~1971年、連載されました。当時社会問題となっていた公害が途中出てきます。
銭ゲバといえば、この名セリフが伝説になっています。
……でも
先生……
世の中には
…………
五円の
お金が
ない家も
あるのです。
(下巻、p.354)
小学校で、遅刻したら5円を「規律の箱」に入れる、というペナルティが課せられています。今では有り得ないような話ですが、当時も本当にあったかどうかわかりません。5円というのは、今の50円とか、せいぜい100円程度のものでしょうか。それがないから払えないわけです。
主人公は蒲郡風太郎。貧乏な家に生まれ、子供の時に母親が医者に診てもらえず、死んでしまうというシーンから始まります。
かあちゃんは
銭があったら
死ななかった
ズラ。
(上巻、p.30)
そして、金の為なら人を騙し、殺することもためらわない、そんな人間となり、社長にのし上がり、最後は政治家になります。先の「五円のお金がない家もあるのです」は、その後の回想シーンです。
蒲郡の哲学は銭です。蒲郡の自信はどこから来るのかと問われるシーンがあって、こう答えます。
銭が正義ズラ
(下巻、p.145)
蒲郡の敵は多数登場しますが、その中でも注目したいのは小説家、秋遊之助です。私がこのマンガで最も印象に残っているのは、蒲郡と秋が夜の街で偶然出くわして見つめあうシーンです。台詞はありません。幻冬舎文庫では下巻、154~155ページです。この見開き2ページが一コマになっていて、蒲郡はニヤリと笑っていて、秋は手に持った煙草を口にくわえています。お互いが相手を認め合うようなシーンです。
この二人はどこか似たものを持っていて、秋は最初に蒲郡に出会ったときに、次のように言っています。
ぼくはね
社長さんの中に
もうひとりの
ぼくを
感じるんですよ。
(上巻、p.307)
しかし秋は迎合せず、むしろ敵対し、小説で悪辣に非難することで責めようとします。蒲郡はそれを一向に気にしません。秋が敵意をむき出しにして、
わたしの武器は
ペンだ!
(上巻、p.319)
というシーンがありますが、蒲郡はこれに対して、もちろん次のように返します。
わたしの
武器は
銭ズラ。
(上巻、p.319)
このマンガの最後に蒲郡は、こう言います。
ほしいものは
みんな手に
入ったズラ。
(p.388)
この直前に平凡な家庭の妄想シーンがあって、それが「ほしいもの」だとしたら、結局何も手に入らなかったことになるので、このセリフはかなり逆説的です。具体的に何が欲しかったのかは明白には書かれていません。ただ、中盤で女子高生に向かって「たったひとつの真実だったのに」というシーンがあって、この「真実」という言葉が全体のキーワードではないかと思うのです。