Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

落日の日本艦隊―体験的連合艦隊始末記

今日紹介するのは、「落日の日本艦隊」。

著者は重本俊一さん。ミッドウェー海戦の大敗北を実際に艦船に乗って戦っていて、描写はリアルだ。さらに考察をいろいろ重ねている。

わが軍に惨敗の苦渋を飲ませた米軍の背後に潜在する不気味な戦力は、一体、何てあろうか? これは、豊富な資源と膨大な工業力とだけでは、私たちには納得できないのである。
(p.136)

戦力的に勝てる要素はあったという説もあるが、重本さんは敗因は戦力ではなく戦術ミスとしている。特に情報戦を重視しているようだ、

米軍は日本海軍の暗号電報を見事に解読し、作戦の全貌を掴んでいた
(p.137)

確かに、敵が次に何をするか分かっていたら対策は簡単だ。国民向けには負けていても勝利と報じるような情報操作ができていたようだが、敵にそのような細工はできなかったのか。暗号技術に過信があったのなら、細工も何もないかもしれないが。

重本さんは終戦前に、回天作戦に従事する。回天は人間魚雷、魚雷に乗った人がコントロールして敵船に命中、撃沈という兵器。出撃したらまず死ぬしかない。

この回天という鉄棺は、空前絶後の即身成仏器である。これで成仏するには、戦場ならば発進して一時間もかからない。
(p.275)

今だと位置情報でコンピュータが狙いを付けるが、当時はそんな高級なものはなかった。それを人間が乗ってコントロールするという発想が出てくるのが大和魂なのか。著者はこれを

他国に見られない特異な国民的精神構造がある
(p.276)

と分析している。

この本は、海戦だけでなく、戦争が始まる前の軍部のゴタゴタからストーリーとして紹介しつつ、評している。例えば三国同盟に関する五相会議の会話、

石渡大倉大臣の「この同盟は、英米仏ソ四ヵ国を相手として戦うことに追い込まれるが、海軍は勝算があるのか?」との質問に対して、常に正論を語る米内海軍大臣が、「勝てる見込みはありません」とはっきり言いきっている。陸軍は、この言葉をどのように解釈したのか、私は想像に苦しむ。
(p.196)

このように批判的な意見が各所に出てくるのが面白い。もちろん重本さんは海軍だから陸軍叩きが基本になる。ある程度の脚色や想像はあると思うが、その中から事実を拾い上げて考えてみたくなる。


落日の日本艦隊―体験的連合艦隊始末記
重本 俊一 著
光人社NF文庫
ISBN: 978-4769828419