Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

月夜の晩に火事がいて

今日は芦原すなおさんの「月夜晩に火事がいて」。ミステリーです。かなりドロドロしています。

主人公の探偵は、山浦歩。先日紹介した「猫とアリス」に出てくる「ふーちゃん」ですが、本作では(でも?)かなりマヌケな感じで、そもそも現地に行くときに新幹線を乗り過ごして、岡山で降りずに広島まで行ってしまいます。岡山で降りる時に岡山-広島間の往復料金を支払ったのですが、

払わずにすませることも可能な往復の乗り越し料金をわざわざ払いにくる人間は稀なのかもしれない。ぼくは公正を重んじたのではない。世間に借りを作るのがいやだっただけである。
(pp.33-34)

借りというのが何なのか分かるような気もしますが、蛇足しておくと、旅客営業規則の第291条に

乗車券面に表示された区間外に誤って乗車した場合において、係員がその事実を認定したときは、その乗車券の有効期間内であるときに限って、最近の列車(急行列車を除く。)によって、その誤乗区間について、無賃送還の取扱いをする。

という定めがあるので、乗車員に寝過ごしたことを説明すれば、無料で降りるはずの駅まで戻ることができます。というのを私は最近まで知りませんでした(笑)。

作品中では寝過ごす前に読んでいた「週刊おんな」というヘンな雑誌が面白い。元ネタがあるのでしょうか。

ふーちゃんは、ときどき死んだ妻から電話がかかってくるという特技を持っています。ちゃんと会話もします。妻との会話で謎を解くという名探偵なのです。 実質的には自問自答なのです。セルフラーニングみたいな。

「わたしはあなたなんだから。ねえ、これって、ちょっとビートルズの『アイ・アム・ザ・ウォルラス』の歌詞みたいね
(p.56)

ストーリーは説明するのが滅茶苦茶疲れるので説明しません。勝手に読んでください。

で、この本で一番疲れるのはイミコさんです。イミコってどんな字なんでしょうか。お話の前半で、屋敷が火事になるのですが、この時にイミコさんの水道の説明。

「こんな風にチョウチョ型のカネの栓を、使うときは上から差し込んでひねり、使わないときはその栓をとって、お勝手の棚のクギに掛けておくのでしょうね。そうそう、水道を英語で言うとヒネルトジャーですって言いますか」
(p.96)

目の前て屋敷がメラメラと燃えているのにこの会話です。だんだんイライラしてきます。ずっと後半で、イミコさんが牛舎を見に行ったときのことを説明するときの会話が、

「それで、牛舎に様子を見にいったんですな?」
「一歩歩んでは二歩下がり、三歩歩んでは四歩下がり」
「それではたどり着きませんが」
「そうしながら懸命にたどり着いたのが事実なら、いかようにもわたくしは牛舎の入口までいきましたのよ」
(p.350)

読んでいるだけで体力が失われて行くような気がします。


月夜の晩に火事がいて
芦原 すなお 著
マガジンハウス
ISBN: 978-4838711406