Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

蔦屋重三郎事件帖(二) 謎の殺し屋

今日は予定が狂ったので急遽「謎の殺し屋」を。少し前に読んだのですが、いまいち気に入らなかったので保留してあった一冊です。そんなの紹介するなと言われそうですが、そりゃそうだ(笑)。タイトル副題が「蔦屋重三郎事件帖(二)」となっていますが、一はまだ読んでいません。謎です。調べてみると「江戸の出版王」というタイトルらしいです。

主人公は蔦屋、かとおもいきや、平沢平格という武士がガンガン前に出てきます。シャーロックホームズに対するワトソン君みたいな感じですかね。しかしこの平格、55歳のジジイです。この話の中で隠居するような年齢です。時代は 1789年。寛政の改革が始まって、処士横議の禁というのがありました。

公儀の制作にけちをつけるような書物は、すべて差し止めになろうとしている
(p.12)

平格は裏仕事で風刺本を書いています。それを蔦屋さんから出版したので、当然圧力をかけられます。それが面白くない。物騒なことも考えますが、まだ理性が勝っている状況です。留守居役同士の寄合で、三味線や太鼓の音がどこからも聞こえてこない、やけに静かなので、こんなことを考えます。

松平定信公が鳴り物嫌いなのはよいとしても、それを惰弱だ、贅沢だといって下の者たちに押しつけることはあるまい。鳴り物は決して惰弱、贅沢などではないし、それを楽しみにしている者も大勢いるのだから……。
(pp.51-52)

Wikipedia には定信が浮世絵マニアみたいな話も出てくるので、現実としては、どうも話が微妙なようですね。

さて、蔦屋が寄合で酒を呑んだ帰りに夜道を歩いていると、

眼前に一瞬で近づいてきた人影が、死ねいっ、と小さく叫びざま、刀を振り下ろしてきた。
(p.91)

何で「死ね」と宣言してから攻撃するのか。不意打ちは無言の方が成功率が高いと思いますが。気合を入れないと振れないのかもしれませんが。蔦屋は窮地に陥りながらも、甘い匂いに気付きます。殺し屋から匂ってくるのですが、薬湯らしい。これが手掛かりになって後半の犯人捜しに繋がるわけですが、しかし蔦屋、生命の危機なのに案外パニクらずに落ち着いていますな。

ということで、最後にコイツがこの人なの、みたいなヘンなサプライズもありますが、個人的には微妙に騙された感がありますね。やはり1作目から読まないとダメなのかもしれません。

ということで最後に一言紹介して、今日は〆めます。

「なかなか思う通りにいかぬのが、人というものですからね」
「それゆえ、人生というのはおもしろいのですが……」
(p.206)

二言ですか。確かに何でも思う通りというのは面白くなさそうですが、全て思う通りに行かないというのは、それはそれで面白くないです。


蔦屋重三郎事件帖(二) 謎の殺し屋
時代小説文庫
鈴木英治
ISBN: 978-4758441667