Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

猫とアリス

今日は芦原すなおさんの「猫とアリス」。「雪のマズルカ」の続編だそうですが、そちらは未読です。

巻末の解説に

ハードボイルドの女性私立探偵小説
(p.268)

と書いてある通り、主人公の笹野里子は格闘技もそれなりにこなして時には拳銃もぶっ放すという日本にはあるまじき女性探偵です。勘はかなりいいようで、

そしてそのとき、わたしの直感が、しっかりとわたしに、これまでになかったくらいはっきりと、警告したのだ。気ィつけや、この男は、ヤバいで、と。わたしの直感はときどき大阪弁で喋る。
(p.180)

大阪弁になるメカニズムは、ほんまわかりまへん。それはおいといて、笹野は攻撃力も十分あります。ジムで格闘技を習っているのです。そのジムのトレーナーのジェイソンは、世界中を格闘技を追い求めて旅をしたというわけのわからない本格派です。そういえば、スピニング・トーホールドの話が出てくるのですが、

「確かドリー・ファンク・ジュニアの得意技よね」
(p.250)

これ言ってるのは笹野なんですが、時代設定とか一体どうなっているのでしょう。ちなみに、この技はリミッターを外してかけたら大変なことになるそうです。

本のタイトル、「猫とアリス」と言われるとシュレディンガーのチェシャ猫しか思いつかないのですが、実は猫は名前があって是次郎。アリスというのはゲイのナイトクラブのホスト、ホステス? よくわかりませんが、その人の呼び名です。猫もアリスも行方不明なので探してくれという依頼が来ます。この時に一緒に仕事をするのが同業者のふーちゃん。つまり仲間の探偵ですね。

「こうして世界はだんだんぼくのやれる仕事が少なくなってくるんだね」
「ひとごとみたいに。それは世界のせいじゃなくて、ふーちゃんのせいなんだよ」
(p.25)

ちょっとヘンなメンタル入ってます。健康的に病んだ感じの人が出てくるのがこの作品の特徴ですかね。探偵物語ですが、ミステリーというよりは、やはりハードボイルド。どうなるのかな、と思ったら誰か死んでるみたいな。

舞台は六本木とか、その周辺。六本木って、

日本はほんとに豊かな国だと、ここだけ見たらそう思えてくる。見せ掛けの街だ。
(p.43)

てな感じでケチョンケチョンに言われてますが、まあいい街ですよね。あそこは。オリンピックに向けて整備しているのか、何か最近ちょっと変わった気がしますけど。

登場人物で面白いのが、笹野に気があるという設定の遠藤警部。

「銃撃されなければ、首を一回りさせられて死んでいたでしょう。本人はだから撃たれて幸せだったのかも」
「この世には色んな幸せの形がありますなあ」
(p.82)

最初のセリフは笹野。後が遠藤ですが、ボケっぷりが流石です。何となくコロンボのイメージを感じます。ボーッと生きているように見えて、案外鋭い。

さて、この作品は青蛇という謎の人物を追いかけるストーリー。青蛇の生い立ちは壮絶です。そんな不条理なことがあっていいのかと思うと同時に、ありそうだなというのが現実でもあります。最後のシーン、

わたしには青蛇の苦しみはわからない。だけど、わたしはあなたの味方だよと、心の中でつぶやいて、声を上げずに泣いた。
(p.267)

ここまで読めたら、一緒に泣いてあげてください。


猫とアリス
芦原 すなお 著
創元推理文庫
ISBN: 978-4488430078