Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

ことばの履歴

今日の本は、山田俊雄さんの「ことばの履歴」です。言葉の由来とか成り立ち的な蘊蓄話が多数出てきます。

あとがきを見ると1991年となっているのですが、読んでいると、昭和の初め頃のようなレトロな気分になってきます。

例えば天気予報というコラムでは、外れぬものの例として、

天気予報の「所に依り雨」
(p.63)

という言葉を紹介しているのですが、これは、

斎藤緑雨の『縮刷緑雨全集』(大正十一年四月、博文館刊)という、もはや古色蒼然とした、表紙に芋の葉か何かの画いてある小冊
(p.60)

から引用したといいます。確かに、どこかで雨が降るなんて予報は、まあ外れそうにない。

特に面白いなと思ったのは「どぐらまぐら」。もちろん夢野久作さんのあの小説のタイトルに使われた言葉ですが、この「どくらまぐら」というのは一体どういう意味なのか、という話が展開していきます。小説「ドグラマグラ」の中で、この言葉は意味が分からんということが書いてあったりするのですが、日本方言大辞典から、

どぐらまぐら 衰退きわまって右往左往すること。山形県北村山郡「どぐらまぐらする」144
(p.86)

だとか、江戸時代の書籍に、

取切粉(どぎらまぎら)
(p.87)

だとか、

東行西行(どぎらまぎら)
(p.87)

という表現があったとか、.よく見付けてくるものだと驚いてしまいます。この後もどぎまぎか、みたいな話に展開していって、もうわけがわからない。結局この言葉は夢野さんが方言を素材にしたのではないか、と推測されています。

「の」の字、というコラムは、指で書く話なのかと思いましたが(笑)、表記としての「の」が省略される話でした。その中で、

東京の旧市内の外周をめぐる環状鉄道を「山の手線」と呼ぶことは、近年復活したところだが、「山の手」という語が、依然として廃れないで在ったという事情からか、その復活は「山の手」と書くなら確実で、今後しばらくは「ノ」の脱落するようなことにはならないように思われる。
(p.130)

2019年現在、JR東日本の公式ページの表記は「山手線」となっていますが、読みは「やまのてせん」という状態で、表記の「の」がどこかで脱落したようです。ヨドバシカメラの歌も「やまのてせん」と歌っています。

 

ことばの履歴
山田 俊雄 著
岩波新書
ISBN: 978-4004301882