Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

男子御三家 麻布・開成・武蔵の真実 (3)

今日は「男子御三家」の3回目。第3章は、「武蔵 勉強を教えない「真の学び舎」」というタイトルが付いているのですが、勉強を教えないで一体何を教えているんだ(笑)。

例えば、センター試験の勉強会をやろうと思った生徒が教室を借りようとしたら却下されます。

受験勉強なんか学校でやるものじゃない。ここは学問をやる場所だ。受験勉強をしたいなら自分ひとりでやれ
(p.168)

勉強ではなく学問をやる場所だそうです。さらに、現副校長の高橋先生が武蔵の生徒だったころ、先生にこんなことを言われたとか。

教師の言うことを信じるな
(p.168)

その言葉を信じていいのだろうか。私もよく知恵袋の回答に「回答を信用するな」と書きますけどね。それを書いているときはオレを信じたら負けだぞ、と思いながら書いています。ちなみに、もっとズバリ書いてあるところもあって、

『武蔵の授業っていうのは教えないというのを意識してやっていたんだな』ということです。教えちゃうと、正解をすぐ求めるようになってしまい、自分で問題を探しに行くことをしなくなる。
(p.176)

勉強を教えないどころか「教えない」んですね。どんな授業かというと、例えば日本史。

一年間丸々使って『江戸時代の相撲』の話のみ。
(p.178)

そんなんで大学入試に対応できるのだろうか。この本の236~237ページに2016年度~2019年度の東大合格者数ランキングが出ていますが、開成は不動のトップ、麻布は常にベスト4に入っています。ちなみにベスト4の残り2校は2018年まで筑駒と灘でしたが、2019年度に異変があって、灘が聖光学院に抜かれて5位になっています。

一方、武蔵は28位、20位、20位、27位とパッとしません。パッとしないといっても1学年定員160人から毎年20人以上の合格者を出しているのはそれなりに凄いのですが、先生が教えないのになぜ合格できるのか謎です。

武蔵の創始者根津嘉一郎さん。

一八六〇年(万延元年)、根津嘉一郎甲斐国山梨郡にて生を受けた。
(p.186)

武蔵高等学校が発足したのは一九二二年四月。この時から理科の「お土産問題」があったというから凄いです。「お土産問題」というのは、

理科の試験の際に、問題用紙以外に受験生たち全員に小さな封筒が配布される。そして、その封筒を開けると「あるもの」が入っている。その「あるもの」を受験生たちにじっくり観察させて、図などを描かせたうえで、その特徴について論述させるのだ。
(p.173)

これは持ち帰っていいので「お土産問題」なんですね。本で紹介されているお土産は、「一本の紙テープを折って作った栞」「チャックのついた透明な袋」+「切り出したチャック」+「虫眼鏡」、「みかんを包むネット」など。ググれば面白いものがたくさん出てきます。

武蔵中学・高校・大学は西武池袋線の江古田(えこだ)駅にあります。この駅は武蔵高等学校の設立の年にできていて、

当時の駅名称は「武蔵高等学校用仮停留所」
(p.170)

根津嘉一郎さんは大株主だったので駅を作らせたようです。この江古田という街が学生街になって、後には地下鉄大江戸線に「新江古田」という駅ができますが、これは「しんえごた」と読みます。「えこだ」と「えごた」?

「江古田通り」という練馬区と中野区にまたがる一本の道があるが、練馬区側では「えこだ通り」、中野区側では「えごた通り」と呼ばれているらしい。
(p.170)

密かな戦いがあるとは知らんかった。ちなみに江古田駅練馬区にありますが、練馬には江古田という地名はありません。こういうの、駅名あるあるですね。

ところで、武蔵には修学旅行がありません。昔はあったのに廃止されたそうですが、その理由が釈然としません。

自分たちが泊まっているホテルまで一頭の鹿を連れ帰ってきた。結果、ホテルの中で鹿が暴れて大騒動になり、学校側が激怒して修学旅行をやらなくなったらしい
(p.204)

という説もありますが、

はじめて新幹線に乗るという生徒がいたんです。彼は新幹線のガラスがかなり強度に造られているという話を聞いて興味津々だった。で、実際どれくらい頑丈なんだろうと金属か何かを叩きつけたら、ガラスが割れて大騒動に発展した。
(p.204)

こっちなのか? もはや都市伝説化していて真相が分からない。どれも本当にありそうなのが怖いです。

武蔵生たちはみんな見事にバラバラ。あえて共通点を挙げるなら『ほかの人と同じことはしない』ということ。
(p.205)

共通点がないという属性は共通点とみなしていいのでしょうか。

武蔵の文化部は13あるそうです。

「気象部」「物理部」「生物部」「太陽観測部」「化学部」「地学部」「音楽部」「民族文化部」「E.S.S.」「将棋部」「鉄道研究部」「奇術部」「ジャグリング部」
(p.210)

若干の違和感があるような気がしますが…。

運動部、文化部ともかなり高いレベルで実績を残しているところが多い。
(p.211)

例えばジャグリング部は全国大会で個人優勝したことがあるそうです。個人優勝ってのが武蔵っぽい? それも学問なのかな。

これで御三家の紹介は終わりなのですが、終章「男子校の潮流」で、大学入試に強いのはなぜか分析しているのが面白い。

共学校だと女の子のことで頭がいっぱいになってしまう。
(p.234)

いやそんなことは…と思いたいですが、実際に東大合格者ランキングの1~5位を男子校が独占しているわけです。ちなみに2019年度に6位に入った渋谷教育学園幕張は共学校。この学校も「自調自考」がモットーで、何となくランキング上位校の共通点が見えてきます。


男子御三家 麻布・開成・武蔵の真実
矢野 耕平 著
文春新書
ISBN: 978-4166611393