12月になりましたが、今月も相変わらず「はぐれ長屋の用心棒」シリーズで、今日は「老骨秘剣」です。しかしもうこのシリーズは殆ど残っていません。あと7、8作品程度でしょうか。
今回のメインゲストは老剣客。名前は平沢八九郎。源九郎よりもデキるような剣の達人です。しかし労咳にかかっていて、年には勝てないという状況。咳きこんだ瞬間に相手に斬られてしまうのですね。実際、最後はそれで破れてしまうのですが…
登場シーンでは、平沢と娘の「ゆみ」が四人の武士に囲まれているところを源九郎が助太刀します。平沢は深手を負いますが手当が早かったので助かります。
傷が治った後、菅井の居合のスゴい技を見た平沢は、菅井に一緒に剣の稽古をしようと誘うのですが、菅井は乗り気でない。
「よし、わしが東燕流の剣を見せてくれよう。おぬしが、わしの遣う剣を見事、かわせば剣術の稽古の話はやめにしよう」
(p.60)
菅井の居合を見た後でおまえにはかわせないだろうと喧嘩を売ったわけです。菅井が居合で一閃した瞬間、
……斬った
と菅井が察知した瞬間、平沢の体が掻き消え、かすかに鍔を打つような音がして右の前腕に疼痛を感じた。
(p.62)
菅井の居合はかわされて籠手を打たれたのです。
「これが、東燕流の鍔鳴りの太刀じゃ」
(p.62)
何かカッコイイ。流石の菅井も驚いた。しかしこの太刀、向き合ったところで面をがらあきにして相手がそこを打ってきたところを避けて小手を斬る、という際どい技なので、腹をくくらないとビビッて技になりません。源九郎ですら、面をあけたときに、
その瞬間、源九郎の身が竦み、棒立ちになった。恐怖が源九郎の身を貫いたのである。
(p.119)
というていたらく。怖いモンは怖いのです。しかし身を捨ててかからないと鍔鳴りの太刀は使えません。
平沢には北川という弟子がいます。北川には東燕流の後を継がせてやりたいのですが、北川はどうしても面をあけるところで怖くなってしまって技が出せません。そこで源九郎に教えを乞うのですが、
稽古で体に覚え込ませるしかあるまい。稽古は嘘をつかぬ。稽古で身についた呼吸や太刀捌きを体が覚えていて、勝手に反応してくれるのだ
(p.154)
剣の技の殆どは体で覚えるというのです。考えて動いているようでは間に合わないのですね。プログラミングと同じです。後で見ると何でこのコードなのか分からない。体が勝手にプログラムを書いている(笑)。
今回のラスボスは矢田。草薙一刀流という、これもカッコイイ流派です。これが最初に源九郎と斬り合ったときに、源九郎は思わず練習していた鍔鳴りの太刀の動きをします。これに矢田が驚愕するシーン。
「鍔鳴りか…」
矢田が訊いた。
「真似事だよ。わしには、鍔鳴りの太刀は遣えぬ」
(p.138)
お互い、無駄にカッコイイ。
老骨秘剣-はぐれ長屋の用心棒(26)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575665918