Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

加賀騒動―百万石をたばかる、大槻伝蔵の奸計

今日の本は「加賀騒動」。加賀百万石で起こったお家騒動がネタになっていますが、時代としては、

宝暦期(一七五〇年代)から明治にかけて、実録体小説(稗史)・講釈・歌舞伎等の媒体を通じてそれは天下に喧伝された。
(p.3)

とのことです。

しかし、これが史実に比べてかなり脚色されているということで、本書には物語の現代語訳の前に、検証されている内容が書かれています。

この話、ざっくりいえば大槻長玄が謀略を使って出世し、主君を暗殺して権力を握ろうとするが、最後に失敗して失脚するという物語なのですが、

悪玉・主殺しの叛臣としての大槻は虚像にすぎず、善玉、有数の能吏、藩立て直しの功労者としての大槻こそ実像であるとの考え方は、もはや定着してゆらぎそうにもない。
(p.11)

話では悪人になっていますが、実際は優秀な人材であり、それを認められて出世したところが敵対グループにハメられた、的な解釈が主流になっているというのです。実際、史実を物語に重ね合わせると、物語では暗殺を計画しているはずの日に既に蟄居しているとか、時間的な矛盾がたくさん出てくるわけです。

大槻内蔵允が石川郡の百姓一揆を鎮圧する話があります。不作のため年貢を減らしてくれと百姓たちが訴えるのですが、物語では内蔵允と大庄屋が結託していて何も対応しません。怒った百姓は庄屋の家を打ち壊したので、どう対応すればよいか役人が相談します。ここで内蔵允が直接交渉するから任せろと名乗り出るのです。内蔵允は武装した百姓が大勢待ち受けているところに丸腰で二人だけで交渉に向かいます。

そこへ平服姿の内蔵允が、従僕一人だけを連れて飄然と現れ「おまえたちの立腹はもっともだ――」と穏やかに諭し始めたのである。
(p.116)

相手の本拠地にたった二人で交渉に行くというのは、昨日紹介したヤクザの交渉術と通じるものがあります。作品中ではあまりよく書かれていないのですが、一揆を鎮圧したこと自体は事実であった可能性があるそうです。事実だとすると、なかなかの交渉力ということになります。

これに対して、明らかにフィクションだと言われているのが、奥女中の浅尾を蛇攻めで拷問死させるシーンです。

大きな瓶(かめ)の中に裸体にした浅尾を入れ、瓶の蓋(ふた)に穴を開けて首だけを出させ、数百匹の蛇をその中に放して全身に巻きつかせた。次に瓶いっぱいに酒を注ぎこむ。蛇は酒を呑んで苦しみもがき、瓶から這い上がって逃れようとしても蓋に邪魔されてどうにもならぬ。ついに浅尾の裸身の竅(あな)という竅から入りこみ、食い破り、身体を縦横に貫き通した。
(p.191)

数百匹の蛇って、なでこスネイクじゃあるまいし、そう簡単に集められないような気もするのですが、まさか絵で描いた蛇みたいな話ではないですよね。


加賀騒動―百万石をたばかる、大槻伝蔵の奸計
教育社新書
青山 克弥 翻訳