Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

烈火の剣-はぐれ長屋の用心棒(29)

今日は、はぐれ長屋シリーズに戻って「烈火の剣」です。第29話です。

今回のゲストは山本という浪人と倅の松之助。ゲストといっても、半年前から長屋に暮らしています。オープニングで菅井と将棋を打っていますが、将棋も強いし、学があって。長屋の子供に読み書きを教えたりしています。

この山本と松之助が三人の武士に襲われているところを、源九郎と菅井が駆け付けます。危機一髪、二人を助けて、何で襲われたのか訊いてみると、何かモゴモゴ感がある。何か隠しているな、ということで適当に済ませておいたら、大名家の家臣っぽい武士が山本のところにやって来て、

これからもおふたりに山本父子の力になってもらいたい
(p.38)

とかいう例のパターンです。実は父子といっているが、父子ではなく伯父と子。松之助の実父は殺されていて、その敵討ちで江戸に出てきたというのです。

何か情報不足でヤバそうな感じだけど、礼金として百両出されると仕方ないです。今回の敵は柿崎藩の藩士で、富樫流を遣います。

数十年前、富樫八兵衛なる廻国修行の兵法者が柿崎藩の領内に立ち寄り、山間に住む郷土や猟師の子弟などに、剣の手解きをしたという。その後、富樫は領内の双子山と呼ばれる竣峰の中腹にある洞窟に籠って剣の工夫をして精妙を得、…
(p.63)

何か噺家の話みたいですが。源九郎達は相手の一人を捕縛して尋問することにします。そこに踏み込んだら余計な強敵がいた。これが大内。流派を聞いたら、

「富樫流だ! おれの遣う鎧斬り、受けてみよ!」
(p.92)

鎧斬りとは豪快なネーミングですが、受けて見よと豪語するような必殺技をマトモに受けたらロクなことがない。源九郎は二の太刀を避けるときに受けずに避けます。これが幸いした。

「おれの鎧斬り、よくかわしたな」
(p.94)

余計なこと言ってないでどんどん攻撃したらよさそうなものですが。鎧斬り2とか、鎧斬りfinal みたいなのはないのか。この鎧切りとはどういう技なのか、山本に訊いてみると、知っているという。

特別な技ではなく、立ち合いのおりの心の持ちようをあらわしている
(p.1129

つまり気合ですかね?

とかいってるうちに、松之助が誘拐されてしまいます。人質です。まあ流れ的に、監禁場所に潜入して救出するわけですが、この用心棒達、本気出せば江戸一の盗賊になれるんじゃないか。

最後の敵討ちのシーンも汚いです。大内に挑むのは兄の敵ということで山本。しかし源九郎が見た感じでは勝てそうにないので、横から大内にちょっかいをかけます。まず、源九郎は、

足裏で地面を摺り、ズッ、ズッ、と音をさせながら大内の右手から間合いをつめ始めた。すると、大内の気が乱れた。
(p.263)

どっちが先に斬り込んでくるか分かりませんからね。大内がチラ見したときに山本が斬り込みます。ズルい。そして二人は一合しますが、お互い届かない。大内は次は速く仕掛けてくる。これを見た源九郎は今度は大内に近づいて、踏み込んで、袈裟懸けに斬り込む。

斬り込まれたら流石に受けないと斬られてしまいます。そっちを向いて受けるしかないのですが、それを見た山本が大内の背中に斬り込む。源九郎はわざと届かない間合いから刀を振ったのです。

やり方が汚いですよね。(笑)

「お、おのれ!」
大内は怒りに顔をゆがめて叫んだ。
(p.267)

これで大内の負けです。剣の勝負は、平常心を失った方が必ず負けるのです。ていうかこんな結末でいいのか。


烈火の剣-はぐれ長屋の用心棒(29)
双葉文庫
鳥羽 亮 著
ISBN: 978-4575666434