Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

長屋あやうし―はぐれ長屋の用心棒

今日も、はぐれ長屋シリーズ、今回は「長屋あやうし」。何が危ういのかというと、伝兵衛長屋が地上げというか、乗っ取られそうになります。

手口は割と定番で、今でもありそうな気がしますが、まずガラの悪いのが越してきて近所にいろいろ嫌がらせをする。怖くなった人はそこから出ていくわけです。部屋が空いたら仲間を連れ込んで、どんどん雰囲気が悪くなる、とかいう。実は裏にはこの長屋を乗っ取ろうとする黒幕がいて、そいつが悪い奴等を金で雇っているわけです。

ガラの悪い奴の名前は滝蔵。ただし、この長屋には源九郎と菅井が住んでいます。こいつらを追い出すのは並大抵のことではない。悪いレベルでは負けていない。しかし相手もさるもの、大勢で一人ずつボコって長屋から出て行けと脅します。そこで源九郎は考えた。

「わしが、長屋を出違っているとの噂を流してくれ」
(p.114)

引っ越し先を探すふりをして敵を探ろうというのですね。そううまく行くモノなのか。とかいってるうちに、何と大家の伝兵衛にかわって滝蔵が長屋の大家になるという話が出てきた。伝兵衛に確かめに行くと、

三崎屋さんに、わけは言えないが、それしか手はないので何とか頼むと頭を下げられましてね
(p.140)

この長屋の大家さんは伝兵衛ですが、さらに上にボスがいるわけです。大大家、ていうかフランチャイズです。しかも長屋を出たいという噂なのに出て行かない源九郎に敵さんもしびれを切らしたのか強敵出現。その名も平沼玄三郎。前にも書いたような気がするが、玄という字が付くと悪そう。

相手のチンピラを騙して拉致して刃物で脅して情報をgetした結果、どうも三崎屋が息子を人質を取られて悪者の言いなりになっているようだ、ということを突き止めた源九郎が三崎屋の主に直に話を聞きにいきます。息子が何で人質に取られているかというと、博奕に手を出して借金が返せなくなったらしい。そこまで分かったら、人質を暴力的に奪還すれば解決だ。滝蔵は大家という立場を利用して、値上げした家賃を払えと迫ってくるのですが、用心棒まで連れてきたのに源九郎が刀を振り回して用心棒の右腕を斬りつけて追い返した。どっちがヤクザか分からない。

とかいってるうちに黒幕の伊勢蔵のアジトが分かったので強襲してちゃんちゃん、という筋書きです。強襲というのもやり方が汚いというか、まず公権力に話を持ち込む。相手は栄造。常連の親分さんですね。誘拐監禁事件があるけどどうよ、と誘った後で、

賭場のある場所も、一味の隠れ家も分かってるんだぜ
(p.253)

そこまでデカい話なのか、町方的にはお手柄のチャンスがネギを背負ってやってきたようなものだから、絶対に捕まえに行くわけですね。長屋側としては手柄なんかどうでもいいから、全部町方の手柄にして顔を立ててやるのです。その代わり、ムカつく奴等は斬らせてもらうということで。町方としても、悪者が雇っている用心棒なんか相手にしたくないから、むしろ斬ってくれ。Win-Win のシナリオがこうやって出来上がります。

ラスボスの平沼との対決は、いつも通りで何かのんびりしている。源九郎が、立ち会う前に訊きたいことがあるという。

「何だ」
「わしは、鏡新明智流を遣うが、おぬしの流は」
「おろは馬庭念流だ」
「すると、上州の出か」
(p.281)

さっさと斬ればいいのにと思うが、プロトコルというものがあるようです。めんどくさい。


長屋あやうし―はぐれ長屋の用心棒
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575663419