Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

迷い鶴―はぐれ長屋の用心棒

今日は「はぐれ長屋の用心棒」シリーズから「迷い鶴」。6作目ですから、かなり初期の作品になります。

今回の源九郎は、巡礼姿の娘が拉致されるところに出くわします。それを阻止すると、この娘が記憶喪失で、ここはどこ、私は誰、の状態。仕方ないので長屋に連れてきます。巡礼姿は白装束。掃きだめのような長屋で真っ白なので、掃きだめに鶴、ということで、とりあえず「お鶴さん」と呼ぶことになります。

このお鶴さん、小太刀の構えが出来ます。

お鶴は右手の小太刀を前に突き出すように構え、左手を腰のあたりに添えていた。腰が据わり、構えにも隙がなかった。かなり小太刀の稽古を積んだとみていい。
(p.65)

ということは剣の修行をしたのだろう、と源九郎は考えます。しかし誰なのか分からない。しかも敵は襲撃してくる。何とか撃退したら、今度は謎の武士たちがやってきます。これは幸い味方で、そのうちの一人は何とお鶴の許嫁なのですが、残念ながらお鶴は何も覚えていない(笑)。いや笑いごとではない。話を聞くと、お鶴の名前は房江で、

房江の父、田代助左衛門は黒江藩で二百石を喰む大目付のひとりだったという。ところが、一月半ほど前の夜更、田代家に数人の賊が侵入し、助左衛門、妻の登勢、ふたりの内弟子を斬殺して逃走した。
(p.111)

大目付が殺されたのは、汚職がバレそうになったからです。賊は汚職の証拠を奪おうとしたが見つからない。その調書を持って、助左衛門の子供の房江と鉄之助が、逃げるために巡礼姿にコスプレして江戸に向かったわけです。その途中で鉄之助は捉えられ、房江は危ないところで源九郎に助けられたわけですね。

さて、だいたいシナリオは分かったところで、源九郎は黒江藩の家老から呼ばれて、正式に仕事の依頼を受けます。金百両。気乗りしないと見せておいて実はやる気満々です。ところが仕事を依頼されたら早速お鶴さんがアッサリと拉致されてしまう。拉致した奴等は、国許から持ち出した調書を取り戻したいが、どこにあるのか分からない。

「房江、国許より治さんした調書はどこにある」
(p.177)

この時点で、お鶴さんとしては、調書の場所どころか、自分が房江という名前であることすら分からない。

「し、知りませぬ」
嘘ではなかった。お鶴自身にも、思い出せなかったのだ。
「この期に及んで、まだ言い逃れようというのか」
(177)

記憶にご・ざ・い・ま・せ・ん、とか言ってやれ。

カムイ伝とかだとここで残虐な拷問シーンになるはずなのですが、このシリーズ、割とバサバサと人を斬り殺す割に、残虐なシーンは少ないです。映像にしてもR15あたりかな。駿河問いなんて絶対にありえないです。せいぜい青竹で殴って、

若い娘を打擲していて嗜虐的な気分になったのか、目が異様なひかりを帯びている。
(p.180)

これが限界です。

さて、源九郎と菅井は、お鶴さんを拉致した奴等のいる屋敷に討ち入って、沢口という藩士を捕まえます。手荒なことをしたくないといいつつ、

源九郎は手にした刀の切っ先を沢口の左足の甲に突き刺した。
(p.206)

これは痛い。お鶴は本当に記憶がないのだから拉致しても埒があかないと説得して、死ぬまで拷問するぞといいつつ、今度は右足に刀を向けます。

「ま、待て」
(p.208)

両足は勘弁して欲しいですよね。お鶴さんの居場所を聞き出したら、武士の情けらしいですが、腹を刀で突き刺して切腹したような姿で殺してしまう。情け容赦ないです。

この後ドタバタがあって記憶も取り戻したところで父の敵討ちをして一件落着、というお約束パターン。今回は父の敵を討つ二人が道場で鍛えていますから、割ときれいに片付きます。


迷い鶴―はぐれ長屋の用心棒
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575662351