Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

風来坊の花嫁ーはぐれ長屋の用心棒(17)

今月も相変わらずの流れで、「はぐれ長屋の用心棒」シリーズから「風来坊の花嫁」。風来坊というと例の青山京四郎。これが貧乏長屋に直接訪ねてきます。次期当主ですから、そんな所に気軽に来る人物ではないのですけどね。何をしに来たのかというと、

「おふたりに、剣術指南を頼みたいのだ」
(p.17)

お二人というのは、もちろん源九郎と菅井です。身分の違いはありますが、知らない仲でもないし、十両くれるというし、あっさり引き受けてしまうのですが、これがまたいろいろお家の中の派閥争いとかあってややこしくなります。特に剣の流派とか、ややこしいですね。皆、オレの流派が一番と思っていますから。

さて、そうこうしているうちに、田上藩の家臣の柿崎がばっさり斬り殺されてしまう。一撃なので下手人は手練です。さらに、死にはしませんが、菅井も斬られてしまうし、菊江も襲撃される。菊江って誰?

これが風来坊の花嫁候補なのです。若様の結婚話なんてのは政略結婚に決まっていますが、今回はお互い気に入っているので問題はない。しかしそれが気に入らない奴等もいる訳ですな。ということで、今回のミッションは、いろいろ邪魔してくる奴を片付けること。菊江も狙われているので守って欲しい。もちろん依頼主は若様ですから、百両ほどポンと出してくるので、簡単に契約成立になります。

ちなみに、はぐれ長屋の連中、大金を受け取るとすぐに十両で飲みに行くんですよね。当時の1両は諸説ありますが、今の金額にすれば10万円程度ですか。100万円で5人で飲むって、キャバクラでぼったくられる感覚か、銀座でママさん囲むか。まあ一晩で飲んだわけでもなさそうですが。

今回の見どころは、まずは御前試合。源九郎に勝負を挑んでくる奴等がいるのです。断ると臆病者ということで、剣術指南にふさわしくないとか言われそう。源九郎的には別にどうでもよさげですが。しかも相手は手強い。手強いと逆に戦ってみたくなる。

源九郎には、こうした戦いを避けるべきではないという思いもあった。剣に生きる者の宿命である。それに、貧乏牢人でこの歳になれば、敗れても失うものはないのだ。
(p.132)

失うものがない人間は強いです。ただ、この御前試合、いろいろ裏があるので試合が面白い。そこは伏せておきます。

試合は何とか勝ちますが、次のクライマックスは秘剣「霞剣」の遣い手、沢田との対決になります。秘剣まで出されては後には引けん【寒】。

どういう対決かというと、菊江様が芝の下屋敷に見舞いに行くことを敵は察知して、待ち伏せて片付ける計画を立てている。そのことを察知した源九郎達が護衛することになります。狙われていると分かっていたらそんな危ないところ行かなければいいのに、絶対に行くということになっている。しかも青山の若様までついていくと言い出す。こうなると源九郎と菅井が同伴しても防げるかどうか。そこで、ちょっとした罠を張ります。

「青山さまと菊江さまには、少々あぶない橋を渡ってもらうことになるが」
(p.227)

これに皆が乗っかってしまうから、ほんまにいいのか、って感じもしますけど。ま、それなりの策ではあります。

最後、全部片付いたところで、また若様が長屋にやってくる。何しに来たの、そういう身分じゃないでしょ、といいたいところだが、菅井と将棋をするという。しかも意外なリクエストがあって、源九郎がおふくを呼びます。

「青山さまがな、おふくの煮染が、食べたいというのだ」
(p.279)

武家屋敷には庶民の味付けの食べ物はないのでしょうね。しかし煮染なんて、すぐにできるモノじゃない。おふくとしては食べさせてあげたいのだが、ないものはない。しかぁし、源九郎は店で買ってこいといいます。

「田村屋の煮染でいいのだ。青山さまに、味は分からん」
(p.280)

青山様、騙されてますぜ(笑)。

「おふく、この長屋で煮染を馳走になったこと、生涯忘れぬぞ」
(p.282)

何か重要なところでミスっているような気もするけど、おふくはまんざらでもないようだし。個人的には糠漬けでも所望して「このお漬物がっ!」位は言って欲しいところですが。今は若様ですが、当主になるともうここに来ることはできないから、挨拶代わりに来たらしいのですね。粋な若様なのです。


風来坊の花嫁ーはぐれ長屋の用心棒(17)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575664171