最近コレばかりですが(笑)、今日は「はぐれ長屋の用心棒」から、「八万石の風来坊」です。
いきなり、娘さんが悪い奴等に囲まれているシーンです。そこに助けに入った武士っぽい若い男が何か情けない。源九郎が近付いてみると娘は同じ長屋に住んでいる、おふくちゃん。源九郎は軽くチンピラをやっつけておいて、武士はどうなっていてるかと見てみると、刺されたわけではなくて、腹が減って動けないという。
それがし、青山京四郎と申す。
(p.17)
おふくは、助けてくれたお礼に長屋に来てくれといいます。
源九郎は、助けたのはおれではないか、と胸の内でつぶやいたが、
(p.18)
そう思いつつ、長屋に誘ってメシを食ってもらうのが大人の対応です。表もあれば裏もある。しかしこの武士、誰? 食う金もないのですが、長屋にしばらく住みたいといいます。店賃(家賃)は払えるのかと問い詰めると、脇差を手渡して、
「初代是一だそうだ」
(p.34)
是一という名刀は実在しています。これを売って金にしろというのです。
地肌は、黒味を帯びて澄んでいた。刃文は是一の特徴と言われている大丁子乱れである。
(p.34)
ということで、長屋に居座ってしまうのですが、何でそんな宝物を持っているのか。
今回のラスボス役は村上泉十郎。迅剛流の達人です。これが京四郎を殺しに来るのですが、そうはさせじと源九郎との勝負になります。最初に立ち合ったときは、お互い浅い傷を負います。源九郎は村上には勝てそうだが、その間に他の敵が京四郎に向かってくるのはまずいと考え、村上にここは引けと促します。仕切り直した方が、お互い得策だろう。
「おぬしとは、このような見物人のいないところで、立ち合いたいものだ」
(p.100)
引けといわれてあっさり引くのは武士としては納得できない状況ですが、このように言われると面目も立つのでしょう。村上は一旦引きます。
さて、何でそういうウロンな奴等が京四郎を襲うかというと、
京四郎君は、羽州、田上八万石の若君であられるのだ
(p.108)
若様だったのですね。ということで、八万石の風来坊というタイトルなのですが、それが何で一文無しで江戸をウロウロしていたかというと、逐電したというのです。逃げたのですな。
この若様、若様だけあって、何かズレています。庶民の感覚がないというのもありますが、かといって偉そうな態度でもない。いいキャラです。源九郎の腕に仰天した護衛の藩士達は、護衛を依頼します。金が出てくれば用心棒達の出番ですね。
若様の居場所はバレバレで敵襲必須なのですが、凄腕の源九郎や菅井が守っていれば動かない方が得策だろう、ということで待ち構えていると、敵が案外多くて慌てたりしますが、このままではジリ貧とみた源九郎達は、いつものパターン、こちらか撃って出る作戦。ちょっとずつ相手を片付けていけばこちらが有利な状況になっていくわけです。
最後は利根川で大決戦になるのですが、結局戦力は互角。マトモにやればどちらも死者多数という予想の中、
「何か手はないのか」
(p.256)
と青山がいうと、源九郎は、
「手はあるが……」
「あるか!」
(p.257)
ないと話になりませんからね。
八万石の風来坊―はぐれ長屋の用心棒
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575663945