Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

袖返し―はぐれ長屋の用心棒

これはシリーズ2作目。今回はシリーズではレギュラーのお吟の話。袖返しというのは掏摸(スリ)の技の名前です。

この技を袖返しと呼び、掏摸の仲間うちでは袖返しのお吟の名でとおっていた。
(p.15)

どんな技か、この前に細かく説明が書いてあるのですが、細か過ぎて引用も説明も面倒なので、興味のある方は本を確認してください。要するに袖が返るように見える技なのです。

お吟は源九郎から掏ろうとして失敗して逆に捕まってしまうのですが、町方に引き渡すのも面倒だと思った源九郎は見逃してやります。それからお吟は掏摸をやめ、父親の栄吉と浜乃屋という料理屋を始めて今日に至る、というわけです。ちなみに、栄吉も元は掏摸です。

さて、お吟は足、いや、手? を洗ったのですが、ひょんなことで掏摸を探している武士に捕まえられそうになります。これをたまたま通りがかった(笑)源之助が助けてやるのですが、この武士が、源九郎の旧友だった武士と一緒に長屋にやってきて、掏摸を探していた理由も伝えて、我らでは手に負えんということで、華町に仕事を依頼するわけです。手伝う義理はないですが、手付の十両を目にすると俄然やる気が出る。

ところが、少し探っているうちに、お吟の父親の栄吉が殺されてしまいます。怖い相手です。

今回の見どころですが、元岡っ引きの孫六が、元掏摸の喜八に話を聞きに行くシーンが面白い。喜八は反物屋で働いているので、孫六は客を装って反物屋に入って、お互い、見た目は反物を品定めしているように見せかけながら、裏世界の情報を仕入れている。最後に、

「むかしの親分らしくて、ほっとしやしたぜ」
喜八が目を細めて言った。
「おめえも、老け込むのは早えぜ」
(p.106)

ここで get した情報は、転びのお松という女掏摸の情報。これが今回の黒幕です。つるんでいるのは常蔵。とても悪い奴です。ところがこの常蔵が最後まで暴れて源九郎に斬られるパターンかな、と思いきや、あっさりと死体になってしまう。

源九郎達がお松の住処に踏み込んでみると、子分と一緒に既に死体になっていたのです。先回りして口封じした奴等がいる訳ですね。ていうか、お松は常蔵を見限って武士に殺させておいてトンズラしたんですね。

最後はお松の隠れ家も突き止めますが、源九郎は無茶苦茶な手に出ます。

「今夜、お松の家に火をかける」
(252)

火付は死罪のはずなんですが(笑)。まあ単にボヤですませる計画で、実際それで済んでいます。火をつける理由は、火事になれば一番大切なものを持って逃げるはず、つまり掏り取ったモノを持って家から出てくるからです。そこをお吟が、

「あたしが、お松のふところから抜くよ」
「掏り取るというのか」
(p.254)

女掏摸対決ですね。今回のクライマックスです。

「やるよ。あたしの腕をお松に見せてやる」
 お吟はそう言うと、右袖をたくし上げて、手首に結んであった赤い糸を歯で噛み切った。栄吉がお吟の右腕を封印した糸である。
(p.255)

封印は解かれた!


袖返し―はぐれ長屋の用心棒
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575661736