Phinlodaのいつか読んだ本

実際に読んでみた本の寸評・奇評(笑)

仇討ち居合-はぐれ長屋の用心棒(38)

今回は「はぐれ長屋の用心棒」シリーズから「仇討ち居合」。38作目は、菅井大活躍です。菅井が居合の見世物をやっていると、きよという武家の娘に勝負を挑まれてしまいます。親の敵だというのですが、冗談じゃない。

「おれは、おまえの親を斬った覚えはない」
「見苦しいぞ」
(p.16)

これでは話にならない。ていうか菅井、結構いろいろ殺しているから、その中に親がいても不思議ではないような気もするのですが、娘を返り討ちというのも大人げないし、関係ないからと逃げるのですが、娘もしつこくて、助太刀まで連れて斬りにくる(笑)。

誤解はなんとか解けるのですが、そうなると今度は居合を教えてくれとか無茶を言い出す。

一年や二年、居合の稽古をしても、それで相手を仕留めるほどの腕にはならないだろう。
(p.46)

一流になるには何年かかるのでしょうか。プログラマーだと15年とかいいますけど。ま、1年や2年ではモノにならないというのは、どんな世界でも同じはずです。

きよの父親が斬られたのは、呉服屋の利権争い、御用達の話が裏にあります。いつものパターンです。攻略パターンもいつも通りです。塒(ねぐら)を突き止めて誘き出して拉致して情報を吐かせる。武士なのに卑怯な手を使うというのが面白い。しかも真打が出てきたらいきなり尋常な勝負になるところも面白い。ま、臨機応変です。

さて、この話、黒幕は旗本の水田浅右衛門。身分が身分なので、

屋敷にこもっている者を、捕らえることはできまい。
(p.213)

浪人が身分の高い武士の屋敷に討ち入りするなんて、常識的に無理というのですが、

「敵討ちということにしたらどうでしょうか」
(p.213)

その屋敷には、きよが親の敵として狙っている相手がいる。だったらそれを名目にして乗り込んで討ち入ってしまえというのです。

「十二の娘が、敵を討てるのか」
(p.214)

魔法少女でもなければ無理でしょうね。実質的には長屋の面子が片付けてくれるのを期待して、とりあえずエラい人達はこの話に乗っかってラスボスとの戦いになります。

もちろん、先に書いたように、剣豪相手に十二の娘が一年や二年修行したところで勝てるわけがない。そこで菅井がきよに授けた技が面白いです。まず、とにかく間合いを見切らせるわけです。斬られる範囲には近寄らない。刀が届かなければ少なくとも負けはないですからね。そんなことが本当にできるものかどうかは知りませんが、理屈としては個人的にはほぼ納得です。私なら刀投げるかもしれません。子連れ狼の拝一刀がやってましたね。武士の魂を投げるとは卑怯なり、みたいな感じはありますが、冥府魔道に入ってしまえば何でもアリです。

ま、結局は少女レベルの剣ではどうにもならず、菅井の出番、というのはお約束みたいなものです。


仇討ち居合-はぐれ長屋の用心棒(38)
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575668063