今日は「はぐれ長屋…」の15作目、「おっかあ」です。
「おとせさんとこの仙吉、旦那も知っているだろう」
(p.25)
この仙吉がまだ十五、六の若造で、グレて悪い奴等とつるんだせいで、強請りをやる羽目になります。裏には悪い奴等の大物が黒幕として控えていて、賭場も開いている。そいつらをぶっ潰す、というのが今回のミッションですが、身内が相手の中にいるから、そいつは助けてやりたい。ということで、面倒くさい案件ですね。
強請りをやる連中は若造なので、源九郎や菅井が本気で相手をするようなレベルではありません。二人の腕ならその気になれば秒殺で全員斬ってしまえるような相手なのですが、子供相手に本気になるのも大人げない。のかと思っていたら、相手もしたたかだから、ちゃんと用心棒の浪人を雇って源九郎を片付けに来ます。
今回の相手のラスボスは渋沢という浪人。スキルレベルは菅井と互角という凄腕なのですが、ちょっとおっとりした所がありますかね、あと、カッとなる。その性格は直した方がいいです。ということで、今回の見せ場はラスボス対決ではなく、最後の強請りのシーンですかね。強請りに入った店には仙吉の母が働いている店。そこに仙吉が強請りに入ってくるわけです。そこに源九郎が老体に鞭打って駆け付ける。
源九郎は飛び退りながら抜刀し、刀身を峰に返して宗次郎の手元に振り下ろした。
(p.260)
宗次郎というのは仙吉の兄貴分です。悪い奴。それでも峰打ちなんですね、余裕です。ただしこの一撃で宗次郎の腕は折れます。強い奴を片付けたら雑魚は慌てて逃げるのでまず強い奴から、というのが基本ですな。
今回の話は、グレている若い奴等が悪になり切っていない、葛藤している感じがいいです。悪いことをしたいわけではないが、金は欲しいし、兄貴は怖い。そんな感じですね。今の世の中でも同じなんでしょうか。あるいは、もっと怖い世界になっているのでしょうか。
仙吉には茂助という友達がいるのですが、ドジを踏んで仲間にボコられたあげく、
おめえたちに逆らった船頭をひとり殺せ
(p.184)
と言われて、それができずに結局身投げして死んでしまう。
……これが、辰造や宗次郎のほんとの姿だ。
(p.185)
本当の姿なんてのは、なかなか見えないものです。ていうか、目に見えるものを信用していてはいけませんね。
酒やめしをただで飲食させ、博奕で遊ばせてくれていたのは、金を強請り取るための手下をてなずけるため
(p.185)
どこだってそういうものです。タダより怖いものはない。
おっかあ―はぐれ長屋の用心棒
鳥羽 亮 著
双葉文庫
ISBN: 978-4575663761